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大阪地方裁判所 平成3年(ワ)3669号 判決

主文

一  被告アズミ建材株式会社は、別紙商品目録一記載の商品「アズミシールA」を販売するにつきそのパンフレット、カタログ等の広告に同目録表示内容欄〈1〉〈4〉〈6〉記載の事項を、同じく商品「アズミシールF」を販売するにつきそのパンフレット、カタログ等の広告に同目録表示内容欄〈2〉〈5〉記載の事項を各表示してはならない。

二  被告渡辺工業株式会社は、別紙商品目録二記載の商品「ワタライトSWテープ」を販売するにつきそのパンフレット、カタログ等の広告に同目録表示内容欄〈5〉〈6〉記載の事項を表示してはならない。

三  原告の被告アズミ建材株式会社及び被告渡辺工業株式会社に対するその余の請求並びに被告オリベスト株式会社及び被告前田硝子株式会社に対する請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、原告と被告アズミ建材株式会社及び被告渡辺工業株式会社の間においては、原告に生じた費用の五分の一を被告アズミ建材株式会社及び被告渡辺工業株式会社の負担とし、原告と被告オリベスト株式会社及び被告前田硝子株式会社との間においては、原告の負担とする。

理由

第一  請求の趣旨

一  被告アズミ建材株式会社は、別紙商品目録一記載の商品「アズミシールA」について同目録表示内容欄〈1〉〈4〉〈6〉記載の事項を、同じく商品「アズミシールF」について同目録表示内容欄〈2〉〈3〉〈5〉記載の事項をそれぞれパンフレット、カタログ等に表示して各商品を販売してはならない。

二  被告アズミ建材株式会社及び被告オリベスト株式会社は各自、原告に対し、金二〇〇〇万円及びこれに対する平成三年五月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告渡辺工業株式会社は、別紙商品目録二記載の商品「ワタライトMGテープ」について同目録表示内容欄〈1〉ないし〈3〉記載の事項を、同じく商品「ワタライトSWテープ」について同目録表示内容欄〈4〉ないし〈6〉記載の事項をそれぞれパンフレット、カタログ等に表示して各商品を販売してはならない。

四  被告前田硝子株式会社及び被告渡辺工業株式会社は各自、原告に対し、金二〇〇〇万円及びこれに対する平成三年五月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

五  訴訟費用は被告らの負担とする。

六  仮執行の宣言

第二  事案の概要

一  事実関係

1  原告は、昭和三六年に原告代表者が創業した個人営業を前身として、昭和四一年に設立された株式会社であり、昭和五九年頃から、ビル等の排煙ダクト及び空調ダクト用のフランジガスケット材(ダクト缶体の接続部分に貼り付けて隙間をなくす機能を果たすテープ)及びたわみ継手材(屈曲又は伸縮のできる管継手。以下、両者を併せて「ダクト材」ということがある。)を製造、販売している。

原告は、当初、石綿を素材とするダクト材を取り扱つていたが、石綿(アスベスト)が肺がん誘発物質であることが指摘され、ダクト材の需要者である空調業者がノンアスベスト製品を求めるようになつたことから、昭和六二年一〇月頃からは、石綿以外の素材によるダクト材の製造販売も始め、昭和六三年三月から、すべて石綿以外の素材のものに切り換え、カーボンを素材とするアルミラップ方式のフランジガスケット材「MK二七〇」「MK二八〇」等、及びたわみ継手材「MK二五〇」(一般空調用)、「MK二六〇」(排煙用)を製造、販売している。そして、原告は平成元年七月頃、右「MK二七〇」等の製品のカタログを作成して配布している(甲A第一、第一二号証、原告代表者)。

2  被告アズミ建材株式会社(以下「被告アズミ」という。)の行為

(一) 被告アズミは、ダクト材の製造販売を業とする会社であり、昭和六一年頃から、次のフランジガスケット材(以下、これを総称して「被告製品一」ということがある。)を製造、販売している(乙B第四、第一一号証、被告アズミ代表者)。

(1) アズミシールA(基材はロックウールフェルトを素材とするボーロイドD)

(2) アズミシールF(基材はグラスウールフェルトを素材とするボーロイドG)

(二) 被告アズミの品質表示

(1) 被告アズミは、被告製品一の宣伝広告のため、昭和六一年頃、左記(イ)記載の見本帳を作成して取引先に配布し、昭和六二、三年頃、左記(ロ)ないし(ニ)記載のパンフレット等を作成して取引先に配布した(被告アズミ代表者。なお、被告アズミは、被告アズミが左記(ハ)記載の品質明細書を作成したことを否認し、販売業者が作成したものであると主張するかのようであるが、被告アズミ代表者の供述によれば被告アズミが作成したものであることが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。)。

(イ) 「ダクトシール見本帳」と題する、アズミシールA・アズミシールFに関する見本帳(甲B第一号証の1、以下「被告広告一1」という。)

(ロ) 「比較表」と題する、アズミシールA・アズミシールFと石綿他との性能を比較した宣伝用パンフレット(甲B第一号証の2、以下「被告広告一2」という。)

(ハ) 「品質明細書」と題する、アズミシールAの素材であるロックウールフェルトの特長、物性、材料構成に関する宣伝用チラシ(甲B第一号証の4、以下「被告広告一3」という。)

(ニ) 「品質明細書」と題する、アズミシールFの素材であるグラスウールフェルトの特長、物性、材料構成に関する宣伝用チラシ(甲B第一号証の8、以下「被告広告一4」という。)

(2) 被告広告一1ないし4には、被告製品一について、次の〈1〉ないし〈6〉の表示(以下、これを総称して単に「被告表示一」ということがある。)がなされていた。

すなわち、被告広告一1には、〈1〉アズミシールAについて、「建設省認定不燃第一一三一号」(以下「被告表示一〈1〉」という。)、〈2〉アズミシールFについて、「建設省認定不燃(個)第一八二一号」(以下「被告表示一〈2〉」という。)、〈3〉アズミシールFについて、「不燃断熱シール」(以下「被告表示一〈3〉」という。)の、被告広告一2には、〈4〉品種「アズミ(A)」について、項目「耐熱」欄に、「三〇〇度」(以下「被告表示一〈4〉」という。)、〈5〉品種「アズミ(F)」について、項目「耐熱」欄に、「不燃(個)第一八二一号」(以下「被告表示一〈5〉」という。)の、被告広告一3には、〈6〉ロックウールフェルトの物性につき「耐熱温度三〇〇度」(以下「被告表示一〈6〉」という。)の、被告広告一4には、〈7〉グラスウールフェルトの特長につき、「不燃(個)第一八二一号」(被告表示一〈5〉)の各記載がある。

3  被告オリベスト株式会社(以下「被告オリベスト」という。)の行為

被告オリベストは、無機質及び有機質繊維を主体とする紙フェルト類の製造、加工及び販売等を目的とする会社であり、金属屋根用断熱材として、ロックウールフェルトを素材とする「ボーロイドD」及びグラスウールフェルトを素材とする「ボーロイドG」を製造、販売しており、被告アズミに対し、「アズミシールA」の基材として「ボーロイドD」を、「アズミシールF」の基材として「ボーロイドG」を販売している(乙A第一号証、証人大久保幸一)。

4  被告渡辺工業株式会社(以下「被告渡辺」という。)の行為

(一) 被告渡辺は、昭和六三年一月二七日、左記(1)のフランジガスケット材(以下「被告製品二」という。)の販売を開始したが、同年三月一四日からは、その「ワタライトMG」という名称の使用を廃止し、同一製品に左記(2)の名称を付して販売している(丙第一八号証、証人吉岡大輔)。

(1) ワタライトMGテープ(基材・ガラス繊維クロス、粘着付)

(2) ワタライトSWテープ(基材・ガラス繊維クロス、粘着付)

(二) 被告渡辺の品質表示

(1) 被告渡辺は、被告製品二の宣伝広告のため、昭和六三年一月から次の(イ)のパンフレットを取引先に配布し、同年八月から次の(ロ)のパンフレットを配布している。

(イ) 「ノンアスベスト ワタライトMGテープ片面粘着付」と題する、ワタライトMGテープのパンフレット(甲C第三号証、以下「被告広告二1」という。)

(ロ) 「空調ダクト工事用ノンアスベスト 粘着付ワタライトSWテープ」と題する、ワタライトSWテープに関するカタログ(甲C第一号証、以下「被告広告二2」という。)

(2) 被告広告二1、2には、被告製品二について、次の〈1〉ないし〈6〉の表示(以下、これを総称して単に「被告表示二」ということがある。)がなされていた。

すなわち、被告広告二1には、〈1〉ワタライトMGテープについて、「この製品は建設大臣官房官庁営繕部監修〔機械設備工事共通仕様書〕の合格品です」(以下「被告表示二〈1〉」という。)、〈2〉基材ワタライトMGクロス特性と題する表の「加熱処理(三〇分間)五五〇度」の区分における「引張強さ たて kgf/g 三八、よこ kgf/g 三五」(以下「被告表示二〈2〉」という。)、〈3〉同表の備考欄に「JISR三四一四」(以下「被告表示二〈3〉」という。)の、被告広告二2には、〈4〉基材ワタライトクロスの特性と題する表の「引張強さ(kgf/五〇ミリメートル)」欄に、「タテ二四〇・三、タテ(「ヨコ」の誤記と認める。裁判所注記)二二七・三」(以下「被告表示二〈4〉」という。)、〈5〉同表の「耐熱温度 度」欄に「五〇〇」(以下「被告表示二〈5〉」という。)、〈6〉ワタライトクロスと石綿布との比較と題する表の、品名「ワタライトクロスTR-九〇一〇」の備考欄に、「JISR三四一四」(以下「被告表示二〈6〉」という。)の各記載がある。

5  被告前田硝子株式会社(以下「被告前田硝子」という。)の行為

被告前田硝子は、ガラス繊維及びポリエステル樹脂の販売を業とする会社であり、被告渡辺に対し、「ワタライトSWテープ」の基材として、ガラス繊維クロス「TR九〇一〇」を販売している。被告渡辺は右基材を「ワタライトMGクロス」と称している(丙第一八号証、証人吉岡大輔)。

二  請求

原告は、被告アズミの表示する被告表示一〈1〉ないし〈6〉及び被告渡辺の表示する被告表示二〈1〉ないし〈6〉は、いずれも不正競争防止法(平成五年法律第四七号。以下同じ)二条一項一〇号の「商品の…品質…について誤認させるような表示」(いわゆる誤認惹起表示)に当たり、原告には右表示行為によつて営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがあると主張して、同法三条に基づき、被告アズミに対してパンフレット、カタログ等に被告表示一〈1〉ないし〈6〉を表示して被告製品一の販売をすることの、被告渡辺に対してパンフレット、カタログ等に被告表示二〈1〉ないし〈6〉を表示して被告製品二の販売をすることの各停止を求めるとともに、右各不正競争行為につき、被告オリベストには被告アズミとの通謀あるいは被告アズミの誤認惹起表示を防止しなかつたことによる共同責任が、被告前田硝子には被告渡辺との通謀あるいは被告渡辺の誤認惹起表示を防止しなかつたことによる共同責任があり、これにより原告は営業上の損害を被つたと主張して、同法四条に基づき、被告アズミ及び被告オリベストに対して連帯して金二〇〇〇万円の損害賠償の支払を、また、被告渡辺及び被告前田硝子に対して連帯して前同様の金二〇〇〇万円の損害賠償の支払を求めた。

三  争点

1  被告表示一〈1〉ないし〈6〉は、誤認惹起表示に当たるか。

2  被告表示二〈1〉ないし〈6〉は、誤認惹起表示に当たるか。

3  被告表示一又は二が誤認惹起表示に当たる場合、原告は、右表示により営業上の利益を侵害され又は侵害されるおそれがあるか(差止請求権を有するか。)。

4  被告アズミは現在被告表示一〈1〉ないし〈6〉の使用を廃止しているか。将来同様の表示をするおそれがあるか。

5  被告渡辺は現在被告表示二〈1〉ないし〈3〉の使用を廃止しているか。将来同様の表示をするおそれがあるか。

6  被告表示一〈1〉ないし〈6〉のいずれかが誤認惹起表示に当たる場合、被告アズミには右表示につき故意・過失があるか。

7  被告表示一〈1〉ないし〈6〉のいずれかが誤認惹起表示に当たる場合、被告オリベストは被告アズミと共同責任を負うか。

8  被告表示二〈1〉ないし〈6〉のいずれかが誤認惹起表示に当たる場合、被告前田硝子は被告渡辺と共同責任を負うか。

9  被告らが損害賠償責任を負う場合に、原告に賠償すべき損害の額。

10  原告の差止請求、損害賠償請求は、信義則に反するか。

第三  争点に関する当事者の主張

一  争点1(被告表示一〈1〉ないし〈6〉は誤認惹起表示に当たるか)

【原告の主張】

1 建設省不燃認定番号(被告表示一〈1〉〈2〉〈5〉)、不燃断熱シール(被告表示一〈3〉)

(一) 建築基準法二条九号に規定する不燃材料について、その認定手続はあらゆる用途に共通のものではなく、例えば屋根材としての認定の如く、主たる用途を明示して個々の用途ごとに認定を受けるものであるが、フランジガスケット材を主たる用途とする不燃認定制度は、現時点において未だ整備されていない(したがつて、当然ながら原告の製造、販売するフランジガスケット材も不燃認定番号を取得していない。)。

アズミシールA又はアズミシールFについての被告表示一〈1〉〈2〉〈5〉の不燃認定番号は、主たる用途を「建築物の屋根・壁・天井」として取得された不燃認定番号であり、これを用途の異なるフランジガスケット材について掲げることは、誤認惹起表示に当たる。「建築物の屋根・壁・天井」の場合は、耐熱性として太陽光線の熱に対する断熱性能が想定されるのに対し、ダクト材の場合は、火災の炎及び高熱に対する断熱性能が想定されるのであり、両者には断熱性の点から見て大きな相違があるからである。現に、被告アズミ代表者は、建設省の担当者から、主たる用途以外の商品に不燃認定番号を表示することは許されないと指摘されたとのことである(被告アズミ代表者の供述)。

(二) しかも、アズミシールAについての被告表示一〈1〉の不燃認定番号は、ボーロイドDに鉄板を貼り付けたものについて取得されているところ、その基材たるロックウールフェルトを素材とするボーロイドD単体は、建築基準法施行令一〇八条の二に基づき不燃材料を指定する昭和四五年建設省告示第一八二八号の定める試験の表面試験に不適合である(甲B第二二号証)のみならず、「不燃」「準不燃」よりも耐火性に劣る「難燃」試験(建築基準法施行令一条五号及び六号に基づき準不燃材料及び難燃材料を指定する昭和五一年建設省告示第一二三一号)にも合格しない(甲B第八号証)。ボーロイドD単体が昭和四五年建設省告示第一八二八号の定める試験の表面試験に不適合であることは、ボーロイドDと全く同品質の日東紡建工株式会社製造販売にかかるルーフネンが右試験に不適合と判定されていること(甲B第二三号証)からも明らかである。

加えて、アズミシールAのようなフランジガスケット材は、ダクトの缶体(金属製筒)と缶体を繋ぐ機能があるため、缶体に貼り付ける部分に粘着剤を付着させることが必要であるが、右粘着剤の耐熱性が九〇度程度に留まるため、これを付着させた状態で右試験を受けても到底通らない。

したがつて、鉄板の貼り付けられていない、粘着剤を付着させたアズミシールAについて、不燃認定番号を表示することはもとより、「不燃」という表示をすること自体が誤認惹起表示に当たる。

(三) アズミシールFについては、その基材たるグラスウールフェルトを素材とするボーロイドG単体で(すなわち鉄板を貼り付けていない状態で)不燃認定番号「建設省認定不燃(個)一八二一号」を取得したものではあるが、右不燃認定番号は粘着剤を付着させないものについて取得したものであるから、フランジガスケット材として使用する状態で取得したものということはできず、したがつて、被告表示一〈2〉〈5〉のように、粘着剤を付着させたアズミシールFについて右不燃認定番号を表示することは誤認惹起表示に当たる。

また、業界では「不燃」という表示を用いると、昭和四五年建設省告示第一八二八号に定める試験に合格して不燃認定番号を取得した製品と受け止められるから、被告表示一〈3〉も誤認惹起表示に当たる。

(四) 被告オリベストは、右建設省告示に定める試験と、用途に応じた不燃認定とを全く別の独立した手続であるかのように主張するが、これは実態に合致しない。両者はあくまでも、用途に応じた不燃認定を得るために右試験を受ける、という一連の関係にあり、機械的に切り離されるべきものではない。したがつて、鉄板を貼り付けて右試験を受けた後に、鉄板を取り去つて用途に応じた不燃認定を受けるということはあり得ない。確かに、これまでフランジガスケット材を標準仕様として不燃認定番号を取得した例はないが、これは、鉄板を取り去つた純粋なフランジガスケット材の素材については、従前の建設省の基準では厳しすぎて、誰もその認定を得られなかつたからに外ならない。

2 耐熱温度三〇〇度(被告表示一〈4〉〈6〉)

以下の事実からすると、アズミシールA、ロックウールフェルトの耐熱温度は三〇〇度であるとは到底いえないから、被告表示一〈4〉〈6〉は誤認惹起表示に当たる。

(一) アズミシールAの通気の遮断性を検査するための通気度試験によると、常温での通気抵抗が一・五九であるのに対し、三〇〇度で三〇分処理するとその通気度は〇・九四となつて六割程度に減少し(甲B第一九号証)、その形状も一見して熱で炭化し変質したものとなる(検甲B第一号証の2)。

この点について、被告アズミは、乙B第三、第一八号証の試験報告書により耐熱温度の表示を正当化しようとするが、右試験の試験体はアズミシールAにシリコンを塗布したもの(空気が漏れにくくなる。)であつて、アズミシールAそのものとは異なつており、しかも、二八〇度においてされたものであるから、耐熱温度三〇〇度の表示の根拠とはならない(のみならず、二八〇度の加熱により、漏気量が増し、厚みが相当量減少しているから、右試験によつても二八〇度を耐熱温度とすることはできない。)。また、被告アズミは、通気度の試験方法としては乙B第三、第一八号証の試験報告書記載の方法によるべきである旨主張するが、最も厳密な意味での性能を知るには、フランジガスケット材をダクトに装着して試験した乙B第三、第一八号証の方法が望ましいとしても、当該製品の通気遮断性自体を知る上では、甲B第一九号証の方法で何の問題もない。けだし、いかにフランジガスケット材をダクトに装着するとしても、フランジガスケット材の通気遮断性が問われるのは、缶体と缶体に挟まれてダクト内に面している部分のガスケットとしての性能だからである。

(二) 耐折れ試験によれば、アズミシールAは、三〇〇度で三〇分処理すると、「非常にもろく耐折れ試験機に取り付けた時に破損した」(すなわち耐折れ回数〇回)ものである(甲B第二一号証)。

(三) また、耐熱温度は、当該素材の加熱状態での引張強度と平常時の引張強度とを比較することにより判定することができるところ、アズミシールAの常温での引張強度は、縦四キログラム、横四キログラムである(甲B第一号証の4)のに対し、石綿では、常温の引張強度が最も弱いもの(等級B)でも、縦一六キログラム、横一二キログラムであり、これに見合う強熱減量(三一・〇パーセント以下)及び石綿含有率(八〇パーセント以上)から耐熱温度(使用最高温度)を割り出すと二三二度となる(甲B第四号証、五〇、五一、五三頁)。アズミシールAの引張強度はこれよりはるかに弱いのであるから、その耐熱温度は一五〇度程度に過ぎないと考えられる。なお、被告広告一3(甲B第一号証の4)には、アズミシールAの強熱減量が一八・五パーセントであると記載されているが、右数値は等級2Aに見合う強熱減量であつて前記等級B以下に見合う強熱減量ではないから、虚偽の表示である。

(四) アズミシールAの基材であるボーロイドDと同品質のルーフネンは、加熱試験の結果により、二〇〇度辺りからその形状が急激に変化し、二〇〇度では煙まで出ることが明らかである(甲B第七号証)。そのため、日東紡建工株式会社は、ルーフネンを物性、形状の変化なく使用できる限界温度は一五〇度以下であるとしている(甲B第一五号証)。さらに、原告がかつてボーロイドDを被告オリベストから購入し、被告オリベストの説明に基づき二〇〇度の耐熱性能を有するものとして他社に販売したところ、一七〇度で煙が出て販売先から苦情を受けたため、被告オリベストの大阪所長とやりとりした際、右大阪所長は今後は一五〇度を使用最高温度と説明してほしいと話したという経緯がある。

【被告アズミの主張】

1 建設省不燃認定番号(被告表示一〈1〉〈2〉〈5〉)、不燃断熱シール(被告表示一〈3〉)

(一) 建築基準法施行令一二六条の三第一項によれば、フランジガスケット材は不燃材料であることが必要であり、その不燃材料(建築基準法二条九号)は、建設大臣が指定するものとされ(建築基準法施行令一〇八条の二)、右規定を受けて、昭和四五年建設省告示第一八二八号が詳細な試験方法を定めてこれに合格したものを不燃材料と指定している。そして、右試験に合格した上で、主たる用途や構造等を明らかにして不燃材料の認定を受けることになつている。

アズミシールAの基材であるロックウールフェルト(ボーロイドD)及びアズミシールFの基材であるグラスウールフェルト(ボーロイドG)は、用途を限定せずに右試験を受けて合格したものであり、その上で、主たる用途を屋根材として不燃材料の認定を受けているものであるが、フランジガスケット材を「主たる用途」とする不燃材料の認定制度が存在しないため、不燃認定番号を取得していないというに過ぎない。

フランジガスケット材の需要者は空調設備業者に限定されており、空調設備業界においては、フランジガスケット材を主たる用途とする不燃材料の認定制度が存在しないことは周知の事実であるから、不燃認定番号が表示されていれば、当然その素材が受けたものであると理解されている。また、被告アズミは、品質明細書等に、各製品についての試験結果報告書や試験成績書、不燃材料の認定書を添付しているから、これらの添付資料を見れば、不燃材料認定の具体的内容が容易に判読できる。したがつて、被告アズミが広告に不燃認定番号のみを表示し、右認定が主たる用途を屋根材とするものであることを明示しなくとも、空調設備業者をしてフランジガスケット材として不燃材料の認定を受けたものと誤認させることはなく、被告表示一〈1〉〈2〉〈5〉は誤認惹起表示に当たらない。

のみならず、そもそも、昭和四五年建設省告示第一八二八号に定める試験については、主たる用途や構造に関する規定が存在しないのであるから、本来右試験に合格すれば、用途等に関係なく不燃材料の認定を受けられるはずであり、屋根材を「主たる用途」とする不燃材料の認定も、「主たる用途」という文言を用いている以上、「従たる用途」というべき用途の存在を前提にしており、不燃材料の認定において用途による限定を加える趣旨とは解し難い。

(二) もつとも、アズミシールAの基材であるボーロイドDは、単体ではなく「無機質断熱材貼り亜鉛鉄板」として不燃材料の認定を受けているが、フランジガスケット材は、ダクトに用いる鉄板と鉄板の継ぎ目から排煙又は空気が漏れないようにするためのシールであり、鉄板に貼つた状態で使用されることを当然の前提にしているから、アズミシールAをフランジガスケット材として使用した時点では、「無機質断熱材貼り亜鉛鉄板」としての要件を当然に満たすことになる。したがつて、アズミシールAを鉄板に貼らずに使用する場合が想定されない以上、無機質断熱材貼り亜鉛鉄板として不燃認定を受けていることを表示したからといつて、誤認惹起表示には該当しない。

2 耐熱温度三〇〇度(被告表示一〈4〉〈6〉)

(一) 前記のとおり、アズミシールAの基材であるボーロイドD(無機質断熱材貼り亜鉛鉄板)は、昭和四五年建設省告示第一八二八号に定める試験に合格しているのであるから、耐熱温度が一五〇度ということはありえない。

原告主張のアズミシールAの通気度試験(甲B第一九号証)は、試験体の表面から裏面に抜ける圧力等を検査したものに過ぎず、フランジガスケット材の現実の使用条件(フランジガスケット材は鋼製フランジと鋼製フランジの間に挟み込まれ、フランジをボルトで接合した上で使用されるので、フランジガスケット材の表面及び裏面はフランジに密着し、それ自体が外気に触れるのはごく僅かの部分に過ぎない。)を無視したものであるから、その試験結果をもつてアズミシールAのフランジガスケット材としての特性、耐熱温度を云々することはできない。正確な漏気量を測定するためには、乙B第一八号証の試験報告書記載の方法か、甲A第一六号証の試験データ記載のような試験体を作製した上で高温試験を行う方法によるべきである。原告自身も、フランジガスケット材の漏気量測定については、甲A第一六号証記載のように鋼製フランジを用いて試験をするのが実際的であることを了解していたのである。

そして、乙B第一八号証の方法によれば、被告アズミの耐熱温度の表示に何の問題もない。すなわち、空気調和・衛生工学会の規格による仕様書(乙B第一九号証)は、防火ダンパについて、「火災により煙が発生した場合または火災により温度が急激に上昇した場合に、自動的に閉鎖する機構」で、「作動温度は、原則として排煙ダクトに設置する場合は二八〇度」と規定しており、これによれば、二八〇度に至つた段階で、防火ダンパは自動的に閉鎖することから、現実の使用条件を前提として二八〇度の高温に三〇分間置かれた状態でフランジガスケット材の漏気量に著名な変化がなければ、排煙用ダクトのフランジガスケット材に要求される機能は満たしているとされているところ、ロックウールフェルトのフランジガスケット材を鋼製フランジに装着し、二八〇度ないし三〇〇度程度で三〇分の高温試験を実施した結果、漏気量は試験前より一二パーセント程度減少したのである(乙B第一八号証)。

(二) 耐折れ試験(甲B第二一号証)についていえば、本来鋼製フランジに挟まれて使用されるフランジガスケット材についてかかる試験をする実益はなく(この点、原告はたわみ継手材と混同している。)、仮にフランジガスケット材について耐折れ強度を考えるとしても、前記の現実の使用条件での下で測定するべきである。

(三) 右のように、フランジガスケット材は、鋼製フランジに挟まれて使用されるのであるから、引張強度等は全く関係がない。

【被告オリベストの主張】

1 建設省不燃認定番号(被告表示一〈1〉〈2〉〈5〉)、不燃断熱シール(被告表示一〈3〉)

(一) 昭和四五年建設省告示第一八二八号に定める試験は、素材として不燃性があるか否かという問題であり、建設大臣が一定の用途を定めて不燃の認定番号を付すこととは別個の問題である。

すなわち、建築基準法二条九号の「政令で定める不燃材料」とは、同法施行令一〇八条の二及び昭和四五年建設省告示第一八二八号により、同告示に規定する基材試験及び表面試験のそれぞれに合格したものをいうが、右告示は、用途に応じて別個の試験方法を定めているわけでなく、あくまで素材として不燃性があるか否かにつき単一の試験方法を規定しているものである。そして、この試験に合格してはじめて、建築材料として不燃性を有すると認められて、「不燃材料」といえることになる。これに対し、建設大臣による不燃材料の認定は、右試験の試験成績書に説明書を添付して申請し、評定委員会による審査を経由してなされるものであり、右説明書には、標準仕様として主たる用途を記載することとなつている(被告オリベストが申請した際の説明書には、「主たる用途」として「屋根、壁、天井」と記載されており、不燃材料の認定もそのようになつている。)。この認定制度は、それ自体不燃材料を定義付けるものではなく、使用者の利便促進、建設材料の信用性確保(生産、流通の合理化)などの見地から別個の政策目的のためになされるものである。原告が「フランジガスケット材を主たる用途とする不燃認定制度は、現時点において未だ整備されていない。」というのは、これまでフランジガスケット材を標準仕様として説明書に記載して不燃認定番号を取得した例がないということに尽きる。

ところで、建築基準法施行令一二六条の三第一項、一二九条の二第一項六号などにより、一定の構造を有する建物の煙道・空調ダクト等は不燃材料で造ることとされている等の関係上、フランジガスケット材の業界では、不燃性がなければ顧客から相手にされないという事情があり、業者は、自社のカタログに不燃材である旨を表示し、不燃材料として販売していることが多いようである。しかし、建設材料として「不燃」を表示し、不燃材料として販売する以上、不燃認定番号までは取得していなくとも、右告示に定める試験に合格していることが必要なのである。被告オリベストの製造、販売にかかるボーロイドD及びボーロイドGは、右告示に基づく試験に合格しており、不燃材料といえるのであるから、被告アズミがこれを素材としてフランジガスケット材を加工しているならば、不燃認定番号の表示の是非はともかく、不燃材料と表示し、不燃材料として販売すること自体は問題がないはずである。

(二) アズミシールAの基材であるボーロイドDは、これを鉄板に貼り付けた状態で前記告示に定める試験を受け、不燃認定番号も「無機質断熱材貼り亜鉛鉄板」として、断熱亜鉛鉄板工業会を通じて取得した。これについて、原告は、鉄板の貼り付けられていない製品について、鉄板の貼り付けられた状態で取得した不燃認定番号を表示することを問題とする。しかし、被告オリベストは、他の競合メーカーと同様、金属板を作つていないこと、メーカー段階から金属板を貼り付けた状態のまま出荷すると建物工事の施工上都合があること、また流通過程での余計なコスト増の要因になること等の理由により、金属板に貼り付けることなく、ボーロイドDのみを独立の建築材料として販売している。そして、鉄板貼りの状態で不燃材料の認定を受けた以上その状態で製品とする場合以外は不燃材料である旨や不燃認定番号を表示してはならない、という規制は全くない(そのような規制をすれば、製造面、施工面や流通、価格の面でかえつて無用の混乱を招き、全く合理性のない規制となる。)。もちろん、被告オリベストは、ボーロイドD単体で不燃認定番号を取得した旨を表示したことはない。したがつて、ボーロイドD単体を対象とする甲第二二号証の試験は、前提条件が全く異なるものである。

(三) また、アズミシールFの基材であるボーロイドGは単体として不燃認定番号を取得している。

2 耐熱温度三〇〇度(被告表示一〈4〉〈6〉)

原告主張の甲B第四号証は、石綿糸の資料であり、これとは材質の全く異なるボーロイドD(ロックウールフェルト)の耐熱温度や引張強度を論じることはできない。

二  争点2(被告表示二〈1〉ないし〈6〉は誤認惹起表示に当たるか)

【原告の主張】

1 「合格品」の表示(被告表示二〈1〉)

被告広告二1が頌布された昭和六三年一月の時点では、機械設備工事共通仕様書には石綿を素材とするフランジガスケット材に関する規制しか記されておらず、ノンアスベスト製品のフランジガスケット材については平成元年一月一三日発行の平成元年版の機械設備工事共通仕様書において初めて制定されたものであるから、ワタライトMGテープが右共通仕様書の合格品である旨の被告表示二〈1〉は、ありもしない共通仕様書への合格を表示するものに外ならず、また、右平成元年版の共通仕様書に合格した事実もないのに何らかの試験に合格したかのように表示するものであつて、誤認惹起表示に当たる。

被告渡辺は、被告表示二〈1〉について、共通仕様書の基準の数値をクリアーしている製品であるとの表示であると主張するが、「クリアー」と「合格」とは全く意味が異なるし、実際にもワタライトMGテープが「厚さ三ミリメートル以上」との点、飛散防止措置の点のいずれにおいても、共通仕様書の基準に適合しないことは明らかである。

2 引張強度(被告表示二〈2〉〈4〉)

ワタライトクロスの引張強度の数値は、和歌山県工業試験場における一二時間加熱状態での試験により得られた「縦二六・三kgf、横一六・三kgf」(甲C第二号証)が正しいのであり、被告表示二〈2〉で示された「たて三八kgf/g、よこ三五kgf/g」という数値(その根拠は丙第一、第二号証という。)及び被告表示二〈4〉で示された「タテ二四〇・三kgf/五〇ミリメートル」「ヨコ二二七・三kgf/五〇ミリメートル」という数値(その根拠は丙第三号証という。)は、わずか三〇分の加熱状態での試験により得られた数値であるから、対象物の属性を正確に表したものとはいえず、誤認惹起表示に当たる。ガラスは、本来耐熱製品ではないため、耐熱試験にあつても一二時間加熱により初めて客観的数値が得られるものであるのに(なお、ガラスクロスは二四時間加熱でほぼ加熱の結果が安定する。甲C第七号証)、被告前田硝子は、一二時間加熱における数値では余りにも引張強度が低く市場で受け入れられないことから、加熱時間を極端に減少させた試験を思い付いたものである。被告前田硝子は、甲C第二号証と丙第二号証における数値の違いを製品の改良によるものである旨主張するが、実際は右のように試験内容の相違によるものである。

被告渡辺は、丙第一号証の試験結果は二五ミリメートル幅の試験片についてのものであるから、五〇ミリメートル幅のものについての数値に直すためにその数値を二倍にした旨主張するが、被告広告二1の「基材ワタライトMGクロス特性」と題する表には幅の表示は全くなく、「ワタライトMGテープ寸法」と題する表には幅二五ミリメートル又は三〇ミリメートルと記載されているのであるから、誰も表示されている引張強度の数値を五〇ミリメートルの幅のものについての数値とは受け止めない。

また、被告渡辺及び被告前田硝子は、被告表示二〈2〉〈4〉の引張強度の表示はワタライトクロスのものであり、ワタライトMGテープ、ワタライトSWテープのものではない旨主張する。しかし、ワタライトクロスを商品用に一定の幅に裁断し、その片面に粘着用の紙テープを貼り付けたものがワタライトテープであり、両者の材質は全く同一であるから、両者の引張強度を区別するのは無意味であるし、また、テープの強度はその基材の強度で表示するのが業界の通例である。さらに、被告表示二〈2〉〈4〉はワタライトMGテープ、ワタライトSWテープのカタログに表示されているのであり、ワタライトクロスの特性とは別にテープの特性が区別して書かれているわけではないことも併せ考えると、被告広告二1及び被告表示二2を見る顧客は、被告表示二〈2〉〈4〉をワタライトMGテープ、ワタライトSWテープの表示と受け取るはずである。

被告渡辺は、現場で引張強度が問題になることはないというが、引張強度は、フランジガスケット材にとつて最も重要な耐熱温度を知るのに不可欠である。

3 耐熱温度五〇〇度(被告表示二〈5〉)

(一) ワタライトSWテープの耐熱温度を五〇〇度とする被告表示二〈5〉は、以下の点から誤認惹起表示に当たることが明らかである。

(1) 被告前田硝子の仕入れ先である日本電気硝子株式会社も所属する硝子繊維協会では、ガラスクロスについて耐熱温度を表示すること自体についてこれを否定しているし(甲C第四号証の2)、近時ガラスクロスの最高使用温度を二三〇度と定めている(甲A第二六号証)。

(2) ワタライトSWテープについての通気度試験の結果(甲C第一〇号証)によれば、常温での通気抵抗が一・八三であるのに対し、五〇〇度で三〇分(本来は一二時間必要なことは前述のとおり。)処理した時点での通気抵抗は〇・八一(常温時の約四四パーセント)に過ぎないから、フランジガスケット材としての機能を果たしえない。

被告渡辺は、右通気度試験について、ワタライトSWテープはフランジとフランジの間に挟まれて使用されるから、テープの表から裏への通気を問題にするのは意味がない旨主張するが、原告が問題としているのは、フランジとフランジの間に挟まれてダクト内部に面した部分のガスケットとしての機能であつて、フランジに接する面ではない。ダクト内部に面したガスケット面が外部との通気遮断性を求められるのであり、通気度試験の結果は極めて客観的な資料である。被告広告二2において「空調ダクト工事用」と記載されていても、現実に五〇〇度もの耐熱温度が表示されていれば、これが排煙ダクト工事用にも使用されることになるのは当然であり、被告渡辺の意図もそこにあるのである。

(3) 製品の引張強度につき常温の引張強度の数値の概ね二分の一を維持できるあたりの温度をもつて耐熱温度とするとされていたが(甲A第二六号証)、被告広告二2に記載されているワタライトSWテープの引張強度によると(ただし、この表示自体、誤認惹起表示に当たることは前記2のとおりであるが、この数値を前提としても)引張強度が常温の引張強度の数値のほぼ二分の一となるのは三〇〇度と四〇〇度の間であり(「ワタライトクロスと石綿布との比較」と題する表)、五〇〇度が耐熱温度となるとは到底考えられない。一般に、ガラスクロスは二五〇度で既に、常温時の引張強度の二分の一になるとされているのであるから(甲C第七号証)、耐熱温度五〇〇度というのは途方もない数値である。

(4) ワタライトSWテープの耐折れ試験によると(甲C第一一号証)、常温では耐折れ回数が七八〇〇回もあるのに、五〇〇度で三〇分間加熱処理後はわずか三回に減少している。ワタライトSWテープはフランジガスケット材であるから、振動を前提とする耐折れ試験は直接関係はないが、物性としてのその耐熱性能を知るための一つの参考にはなりうるものである。

(二) 被告渡辺及び被告前田硝子は、財団法人日本建築総合試験所の試験(丙第一六号証)における基材試験が七九〇度の炉の中で行われたから耐熱温度五〇〇度の表示は問題がない旨主張する。しかし、試験の際の炉内温度は、単に試験の条件を定めているものに過ぎず、その炉内温度の中で、一定の基準内の変化に止まつたときに合格と判定するものであつて、当該試験体の耐熱温度とは全く別次元の事柄である。のみならず、右試験における試験体は厚さが五〇ミリメートルであり、被告広告二2に記載された、せいぜい厚さ二ミリメートルのワタライトクロスとは到底同一の素材とはいえない。

被告前田硝子の指摘する日東紡績株式会社のパンフレット(甲C第七号証)の記載は、温度が五五〇度まで上がれば、不燃性の目止め加工の影響がなくなり、ガラスの性能がそのまま表れることを述べたに過ぎない(甲C第九号証)。

4 JISR三四一四(被告表示二〈3〉〈6〉)

ワタライトMGテープもワタライトMGクロスもJISR三四一四に適合するものではないのに、被告表示二〈3〉は、顧客にこれがJIS規格に適合するものではないかとの印象を持たせるものであるから、右表示は誤認惹起表示に当たる。被告渡辺及び被告前田硝子は、「備考として」記載したに過ぎないから誤認惹起表示には当たらないと主張するが、「備考として」JISR三四一四と記載されているからといつて、ワタライトMGクロスの性能を知るために何の手掛かりにもならず、JISの規定を詳しく確かめればワタライトMGクロスはJISR三四一四の規定には適合していないことが分かるに過ぎないのであつて、かかる無意味な事項をわざわざ表示すると、顧客にJIS規格適合の印象を持たせることは否定できない。

被告表示二〈6〉は、被告表示二〈3〉と同じ理由により誤認惹起表示に当たる。特に被告広告二2には、石綿布についてJISR三四五一の表示があり、被告渡辺製造の石綿布はJISR三四五一に適合しているとのことであるから、顧客は、ワタライトクロスについてもそこに表示されているJIS規格に適合するであろうと考えるのは当然であり、その表示の不当性はさらに大きい。

【被告渡辺の主張】

1 「合格品」の表示(被告表示二〈1〉)

被告表示二〈1〉は、機械設備工事共通仕様書の基準に合格する、すなわち、右の基準の数値をクリアーしている製品であるとの表示であり、虚偽の表示ではない。

2 引張強度(被告表示二〈2〉〈4〉)

(一) 被告表示二〈2〉の数値が被告広告二1に記載された理由は次のとおりである。

被告渡辺は、昭和六一年三月一二日、ワタライトMGテープ、ワタライトSWテープの基材であるワタライトクロス(ガラス繊維の織物)の物性試験を大阪市立工業研究所に依頼し、五五〇度加熱処理(三〇分間)における引張強度(kgf/二五ミリメートル)縦一七・一、横一一・四という結果を得た(丙第一号証)が、この時の試験片が二五ミリメートル幅であつたことから、五〇ミリメートル幅の場合はどうすれば良いかを右研究所に問い合わせたところ、数値を二倍すれば良いという返事を得た。また、被告前田硝子が昭和六〇年一〇月一五日に和歌山県工業試験場に五〇ミリメートル幅試験片での試験を依頼したところ、五五〇度加熱(三〇分間)後における引張強度(kgf)縦三九・七、横三五・三という結果が得られた(丙第二号証)。そこで、被告渡辺は、ワタライトクロスの物性を被告広告二1に記載する際、丙第一号証の数値を二倍した数値と丙第二号証の数値を参考にして数値を決めたものである。

(二) ワタライトクロスの物性に関する被告表示二〈4〉は、被告渡辺が昭和六三年五月二五日に和歌山県工業試験場にワタライトクロスの物性試験を依頼して得られた結果(丙第三号証)に基づくものであり、決して虚偽の記載ではない。

(三) 被告渡辺は、被告広告二1及び2において、石綿との比較でワタライトMGテープ、ワタライトSWテープの基材であるワタライトクロスの物性は説明しているが、ワタライトMGテープ、ワタライトSWテープ(ワタライトクロスの片面に剥離紙付きの粘着加工を施した後、テープ状に裁断したもの)の物性について言及したことはない。なぜならば、テープは、現場で使用するとき、これを貼り付けるだけであるか、あるいはボルト用の透孔が一定間隔で設けられたテープについてはボルト孔と合わせる作業が加わるだけであつて、引張強度が問題となることもないからである。クロスの引張強度とその加工品であるテープ(特にボルト用の透孔が設けられたもの)の引張強度が同一であるはずがなく、また、業界においてこれらが同一であるとの認識はない。被告製品二を使用するのはすべて工事業者であり、これらの専門家が、被告広告二1及び2を読んで基材であるガラス繊維の織物の特性をテープの特性であると誤認するおそれは全くない。

3 耐熱温度五〇〇度(被告表示二〈5〉)

(一) 耐熱温度を五〇〇度とする表示は、財団法人日本建築総合試験所において炉内温度を七九九度とする基材試験で合格判定を受けていること(丙第一六号証)、一般的にガラスクロスの耐熱温度が五五〇度とされていること(甲A第一五号証)に照らし、誤認惹起表示には当たらない。

(二) 原告は、被告渡辺がワタライトSWテープの耐熱温度を五〇〇度と表示しているとするが、そもそも被告渡辺が五〇〇度の耐熱温度を表示しているのはワタライトクロスについてであつて、ワタライトSWテープについてではない。

(三)(1) 原告が硝子繊維協会ではガラスクロスについて耐熱温度を表示すること自体を否定しているとして引用する甲C第四号証の2には、「否定」という記載はない。

(2) 原告は、ワタライトSWテープの通気度試験の結果(甲C第一〇号証)を原告主張の根拠とするが、ワタライトSWテープについて通気度を問題にするのは意味がない。なぜなら、通気度は物体の表から裏への通気の度合いに関するものであるが、ワタライトSWテープは空調ダクトのフランジガスケット材としてフランジとフランジの間に挟まれて使用され、ワタライトSWテープの表面と裏面はそれぞれフランジに面しボルト等により加圧される状態にあるからである。また、被告広告二2には、ワタライトSWテープが空調ダクト工事用のフランジ接合部の漏気を防止するためのものであることが記載されているところ、空調ダクトの中を流れる空気は高温でも三〇度から五〇度くらいまでであるので、原告主張の五〇〇度での通気度試験は、火災のような事態を想定したものであろうが、このような温度の場合はダクト自体が用をなさない状態なのであるから、意味がない。しかも、被告渡辺は、ワタライトクロスの耐熱温度が五〇〇度であるために通気遮断性能がよいなどというように耐熱温度と通気遮断性能を関連づけて表示しているわけでもない。

(3) 従来フランジガスケット材の原資材として使用していた等級Aの石綿布につき、JIS(R三四五一)は、試験片の厚さが二ミリメートルの場合、四〇〇度±一〇度の電気炉中で試験片を三〇分加熱したときの引張強さの数値が縦三・九以上、横一・六以上であることを要する旨規定していたところ、ワタライトクロス(ワタライトテープではない。)は右数値以上であつたから、被告渡辺は、石綿との対比から耐熱温度五〇〇度と記載しているのであつて、JIS規制との関係から考えると需要者にマッチした表示というべきである。

(4) 被告渡辺は、ワタライトクロスについてもワタライトSWテープについても耐折れ回数は表示していないのであつて、ワタライトクロスについて耐熱温度五〇〇度と表示しているのは引張強度に関してのみである。原告は、耐熱温度をもつて安全使用温度であるとの主張をするかのようであるが、ガラスクロスについての耐熱温度の定義はない状態である(昭和四五年建設省告知第一八二八号でもそのような定義はない。)。したがつて、被告広告二2を見た者は、これまでの石綿との関係で数値を問題にするであろうから、石綿との関係で引張強度を比較するために温度変化を記載しているものと感得するのであつて、耐熱温度五〇〇度との記載から、耐折れ回数や通気度のことまで感得することはない。

4 JISR三四一四(被告表示二〈3〉〈6〉)

JISR三四一四の記載は、ワタライトクロスTR-九〇一〇についての試験データの末尾に記載されているが、ワタライトクロスTR-九〇一〇は厚みが二ミリメートルについてのものであり、JIS規格にはこのような厚手のものはないので、それとの参考のために「備考として」記載したに過ぎないから、被告表示二〈3〉〈6〉は誤認惹起表示には当たらない。

5 なお、原告自身、原告商品カロリンメックスのカタログ(乙B第五号証)、チラシ(乙B第七号証)、業界紙の広告(乙B第一六号証の4)において不当な表示をし(後記一〇【被告アズミの主張】1ないし4の不燃認定番号、「特許出願済」、「夢の繊維」、昭和四五年建設省告示第一八二八号の試験合格)、また、フランジガスケット材には耐熱温度の定義がないのに、カタログ(甲A第一号証)において耐熱温度の表示をしているのであつて、本件のようなフランジガスケット材については規制がないのであるから、被告広告二1、2における表示を不当とはいえないのである。

【被告前田硝子の主張】

1 引張強度(被告表示二〈2〉〈4〉)

(一) 被告表示二〈2〉〈4〉の引張強度の数値は、ワタライトクロスについてのものであつて、ワタライトMGテープ又はワタライトSWテープについてのものではない。

(二) 原告がワタライトクロスの引張強度の正しい数値として主張する「縦二六・三kgf、横一六・三kgf(甲C第二号証)は、ガラスクロスTR九〇一〇(ワタライトクロスの素材)とは別の石綿代替ガラスクロス(薬液処理済み、厚さ二・七ミリメートル、質量七二一・六グラム/平方メートル)について、被告前田硝子が昭和六〇年七月一一日和歌山県工業試験場に委託して行つた試験の結果である。被告前田硝子は、右試験結果が断熱用ガラスクロスとしては満足すべき成績でなかつたことから更に改良を行い、次に開発したガラスクロス(TR九〇一〇)について、同年一〇月一五日、同じく和歌山県工業試験場に委託して試験を行つたところ、厚さ一・七ミリメートル、質量八七二・〇グラム/平方メートル、五五〇度の引張強度が縦三九・七kgf、横三五・三kgfという数値(丙第二号証)が得られたため、これを製品化することにしたのである。

このように甲C第二号証の試験対象物の方が厚さが大で質量が小さいということは、バルキー加工(嵩高加工、すなわちガラス繊維に風圧をかけて毛羽立たせること)の過程において風圧を多くかけていることを意味する(なお、風圧をかけすぎると、ボリュームが増す半面、ガラス繊維が破損して質量が減少し、強度が劣ることになる。逆に、風圧が少ないと、質量と強度の減少度は小さいが、ボリュームが不足し、耐熱性が劣ることになる。)。また、加熱時間を三〇分とする試験方法は同業他社における試験方法に倣つたものであつて、格別の意図があつて加熱時間を変更したものではない。

2 耐熱温度五〇〇度(被告表示二〈5〉)

以下の事実からすれば、耐熱温度を五〇〇度と表示しても相当というべきである。

(一) 財団法人日本建築総合試験所の試験結果(丙第一六号証)は、炉内温度七〇〇度以上で得られたものである。

(二) 丙第一号証ないし第三号証の試験は、五五〇度までの温度でなされているが、なお引張強度を残している。

(三) グラスファイバー(Eガラス)の特性について、日本電気硝子株式会社のカタログ(丙第一〇号証)では軟化点を八四三度、歪点を六四〇度と表示している。

(四) 日東紡績株式会社のパンフレット(甲C第七号証)では、「五五〇度では加工の種類によらず、ガラス繊維自体の耐熱性がそのまま表われ」る、と記載されている。

3 JISR三四一四(被告表示二〈3〉〈6〉)

被告渡辺の主張4と同旨

三  争点3(被告表示一又は二が誤認惹起表示に当たる場合、原告は、右表示により営業上の利益を侵害され又は侵害されるおそれがあるか〔差止請求権を有するか〕)

【原告の主張】

1 原告及び被告らの製品は、ダクト材として石綿の使用が廃止された後にノンアスベスト製品の主な原材料となつたカーボン、ロックウール、ガラスのうち、原告製品がカーボンを素材とするものであり、被告アズミの被告製品一がロックウールフェルト(ボーロイドD)又はグラスウールフェルト(ボーロイドG)、被告渡辺の被告製品二がガラス繊維クロスを素材とするものであるという違いがあるものの、ダクト材として全く同一の機能を有するから、原告・被告ら間に競合関係が生ずるのは当然である。

原告は、昭和六二年まではダクト材の売上げを伸ばしたが、原告と同時期の同年一〇月頃から石綿以外の素材によるダクト材の製造販売を始めた被告アズミ、被告渡辺、訴外株式会社アサヒ産業及び訴外三喜工業株式会社らが、被告表示一及び二のように、製品の耐熱温度を大幅に偽つて高温の表示をしたり、現実には存在しない不燃認定番号を正規のもののように表示するなどして、製品の品質、性質を大幅に偽る表示をパンフレット等において繰り広げた結果、顧客は右各虚偽の表示に欺かれ、取引対象を原告製品から右各社の製品に切り換えるという事態が出現するところとなつた。右現象は昭和六三年春から顕著となり、以後原告の売上げは減少の一途をたどつたものであるから、原告は、被告表示一及び二により営業上の利益を侵害され又は侵害されるおそれがある。

他方、原告製品は、建設大臣官房官庁営繕部監修「機械設備工事共通仕様書」(甲A第四号証)に合致しているから、原告は、不正競争防止法二条一項一〇号、三条に基づき被告表示一及び二の差止請求権を有するものである。

2 被告アズミは、原告製品のフランジガスケット材が建設大臣の不燃材料の認定を受けていないことを問題とするかのようであるが、前記のとおり従前の建設省の基準では厳しすぎてだれもその認定を取得しえないものである。そこで、原告は、それに代わる大阪府立総合技術研究所の試験結果や運輸省の交通安全公害研究所による「不燃性」の判定を表示するなどして、できるかぎり公正に原告製品の性能を表示し(甲A第一号証)、また、原告製品について昭和四五年建設省告示第一八二八号に定める試験のうちの表面試験、通気度試験などを実施し(甲A第二一、第二二、第二五号証)、原告製品がフランジガスケット材として必要な性能を十分に備えていることを明らかにしている。

【被告アズミの主張】

前記のとおり、建築基準法施行令一二六条の三第一項二号によれば、フランジガスケット材は不燃材料であることが必要であるから、フランジガスケット材を主たる用途とした建設大臣による不燃材料の認定は受けられないとしても、不燃材料の性質を有すること、すなわち昭和四五年建設省告示第一八二八号に定める試験に合格するか、右試験に合格する不燃材料としての性質を有することが必要であるところ、原告自身の製品が不燃材料の性質を有することの立証がないから、原告は営業上の利益を侵害されるおそれのある者とはいえない。

四  争点4(被告アズミは現在被告表示一〈1〉ないし〈6〉の使用を廃止しているか。将来同様の表示をするおそれがあるか。)

【被告アズミの主張】

被告アズミは、平成四年の段階で既に、被告オリベストとの取引を停止され、原材料を購入できなくなり、以下のとおり被告表示一〈1〉ないし〈6〉の使用もしていないから、原告の差止請求は理由がない。

1 被告表示一〈1〉ないし〈3〉が記載された被告広告一1(ダクトシール見本帳)は、乙B第四号証のものに変更しており、不燃認定番号も「不燃断熱シール」との表示も使用していない。

2 被告表示一〈4〉が記載された被告広告一2(比較表)については、現在、耐熱温度を二八〇度と表示したものを使用している。

3 被告アズミは、昭和六二年から六三年当時、大阪方面では、排煙ダクトには耐熱温度三〇〇度のシール材の使用を指導されていたことがあるらしく(行政による指導なのか否かは不明)、一時期、アズミシールAの耐熱温度を三〇〇度と表示したこともあつたが、空気調和設備工事標準仕様書において排煙ダクトに設置する防火ダンパは二八〇度で作動するように定められ、耐熱温度を二八〇度と表示すれば足りることになつたため、現在は、耐熱温度を二八〇度と表示した乙B第一号証の品質明細書を使用している。

また、アズミシールFについて、本訴の訴状送達を受けた直後の平成三年六月頃からは、被告アズミに対して品質明細書の交付の要望があつた場合には、乙B第二号証の2のように不燃(個)第一八二一号「の素材を使用」と記載した上で、交付している。

そして、右のとおり内容を変更した品質明細書(乙B第一号証、第二号証の2)についても、現在、内容を検討の上抜本的に改訂する予定であり、使用を控えている。

【原告の主張】

1 被告アズミは、現在不燃認定番号は表示していない旨主張するが、ダクトシール見本帳No.2(甲B第一二号証)のとおり、「建設省認定」の文字は故意に残した上で、不燃認定番号のみをサインペンで塗り潰すというような極めて便宜的な態度をとつていることからみて、到底信用できない。

2 何よりも問題なのは、被告アズミが既に出回つたカタログを回収しておらず、また配布先に表示の訂正を何ら通知していないことである。

被告広告一1(甲B第一号証の1)のようなカタログは、一度顧客に配れば、それ以降は製品の変更でもない限り再度配布する必要がないものであるから、いかに被告アズミが乙B第四号証のものに変更したとしても、これを既に被告広告一1(甲B第一号証の1)を配布した顧客すべてに配布しなければ全くその効果はない。単に、新規の顧客に対してのみ意義を有するに過ぎない。

五  争点5(被告渡辺は現在被告表示二〈1〉ないし〈3〉の使用を廃止しているか。将来同様の表示をするおそれがあるか。)

【被告渡辺の主張】

被告渡辺は、被告広告二1(甲C第三号証)については平成三年三月一四日をもつて配布をやめ、同年八月から被告広告二2(甲C第一号証)を配布しているから、被告表示二〈1〉ないし〈3〉の使用差止めを求める請求は理由がない。

原告は、被告渡辺が被告広告一1の回収を行つておらず、ワタライトMGテープの廃止も通知していないというが、被告渡辺は、ワタライトMGテープの販売中止後ワタライトMGテープの注文を受けたことはないのであり、このことは、品質の誤認がなかつたことを意味する。

【原告の主張】

被告渡辺は、大量に頒布した被告広告二1(甲C第三号証)の回収を全く行つていないし、頒布した先にワタライトMGテープの廃止も通知していないから、顧客は被告広告二1を見て注文を続けることは当然であり、したがつて、現在も被告表示二〈1〉ないし〈3〉の使用差止めを求める必要がある。

六  争点6(被告表示一〈1〉ないし〈6〉のいずれかが誤認惹起表示に当たる場合、被告アズミには右表示につき故意・過失があるか。)

【被告アズミの主張】

以下のように、不燃材料の認定が用途毎にされるものであるか否かは、法律上一義的に確定できない困難な問題であるばかりか、建設省からも公式見解が示されていない状況にあるから、仮に用途毎にされるものであつたとしても、建築基準法、昭和四五年建設省告示第一八二八号の解釈について見解が相違したものに過ぎず、直ちに被告アズミに過失があつたと評価することはできない。

1 前記のとおり、昭和四五年建設省告示第一八二八号に定める試験については、主たる用途や構造に関する規定が存在しない。

2 被告アズミ代理人が弁護士法二三条の二に基づき、二度にわたり、建設省住宅局に対し、不燃材料の認定において「主たる用途」を記載した理由及び法的根拠について照会をしたにもかかわらず、回答がない。したがつて、仮に被告アズミが建設省に対し、同旨の照会をしていたとしても、回答はなかつたであろうと推認され、正式な意味での業界指導なるものも存在しなかつたのであるから、被告アズミとしては、不燃材料の認定が主たる用途毎にされるものか否かを確認する術はなかつた。

3 被告アズミは、神戸市役所の建築工事の際に、被告広告一1と同様の見本帳を提示したが、何のクレームもなかつた。

4 建築確認申請をする段階において、都道府県の建築指導課による建築材料の審査を受けることが必須とされており、不燃材料を使用することが建築基準法で定められている排煙用ダクトの素材については厳重な指導がされるのが通常と考えられるところ、被告アズミは都道府県建築指導課から何のクレームも受けなかつた。

七  争点7(被告表示一〈1〉ないし〈6〉のいずれかが誤認惹起表示に当たる場合、被告オリベストは被告アズミと共同責任を負うか)

【原告の主張】

1 被告オリベストは、被告アズミが不燃認定番号の表示をフランジガスケット材に使用することを前提に、被告アズミに不燃認定番号を教示した(被告アズミ代表者、甲B第一号証の11・12)。そもそも、業界において他社の不燃認定番号を表示しようとすれば、その番号を取得した会社の許可なしにはできないことは、自明の事柄である。

しかも、被告オリベストは、原告が本件訴訟提起以前に被告アズミによる不燃認定番号の表示について何回か抗議してもこれを無視し、原告が平成三年三月に代理人弁護士を通じて是正を求めても(甲B第一七号証の1)、不燃認定番号の表示は全く問題がない旨表明した(同号証の2)。

このように、被告オリベストは、被告アズミが不燃認定番号を表示して被告製品一をフランジガスケット材として販売している事実を十分知りながら、その原材料たるボーロイドD、ボーロイドGの被告アズミへの販売を継続していたのであり、その責任は重大である。

そこでやむなく原告が本件訴訟を提起したところ、被告オリベストは、その後平成四年四月一〇日に至りようやく、被告アズミに抗議するに至つた。しかし、ここでも自らの責任は棚に上げて全責任を被告アズミのみに負わせようとしており、その態度は極めて無責任である。

2 このような経過によれば、被告オリベストと被告アズミの間に通謀の存在したことが窺われ、仮に通謀まで存在しなくても、被告オリベストの積極的関与に照らせば、その共同責任を免れるものではない。

【被告オリベストの主張】

被告オリベストは、以下のとおり、被告表示一について指示や教示を与えたことも、相談や協議を求められたこともなく、またこれを助長したこともない。

1 被告オリベストは、ボーロイドD、ボーロイドGを、いずれも屋根、壁、天井等の建築材料(断熱・吸音材)を主たる用途として販売しており、カタログにも屋根材として適切である旨表示している(乙A第一号証)が、販売先に使途を限定するようなことはしてはいないし、またどのように利用されているかの監視もしていない。すべての顧客についてそのような監視体制をとる法的義務はない。原告は、被告アズミにおいてフランジガスケット材に用いることを被告オリベストが知りながらボーロイドD、ボーロイドGを販売していることを問題にするが、これをどう使うかは被告アズミの自由であり、売主たる被告オリベストが規制できるものではない。

2 不燃認定番号は、いずれも屋根材に限定して取得したものではなく、「主たる」用途を屋根、壁、天井の裏貼材として取得したものである。そして、被告オリベストは、自社のカタログ(乙A第一号証)に製品ごとに取得した右不燃認定番号を表示し、その性能や特徴を記載し、また利用例として屋根裏や天井に用いられている写真を掲載しているに過ぎず、他の用途を記載したり、事実に反する表示はしていないし、被告アズミら顧客にフランジガスケット材その他の材料に適すると勧めたこともない。

3 原告は、平成元年四月に、被告オリベストに対する原材料供給先である日本電気硝子株式会社に対して、本件と同種のクレームを記載した上、被告オリベストとの取引の中止を促すような内容の投書をして、回答を迫つたことがあり、同社から連絡を受けた被告オリベストは、吉武営業部長(当時)から被告アズミ代表者に対してカタログの表示につき善処するよう申し入れた。

その後、平成三年三月に原告代理人から内容証明郵便が送付されるまで、本件について被告オリベストが原告から申入れを受けたことは全くなかつた。被告オリベストは、右申入れについても放置したわけではなく、事実関係を調査の上、被告アズミに対し、不燃認定番号の表示を許可したことはないからカタログの表示は改善して原告のクレームに対する適切な処置をとるよう申し入れたのであり、その結果被告アズミはカタログから不燃認定番号の表示を抹消した。

被告オリベストが被告アズミに対してボーロイドD、ボーロイドGの認定書、試験成績書の各写しを送付したことはあるが、これらの書類の写しは、求められればどの顧客にも送付するのが商慣習であり、右送付によつて、被告アズミがこれらを顧客に見せることを被告オリベストが承知したことにはなつても、カタログに不燃認定番号を転載することを承知したことにはならないから、右送付の事実をもつて通謀の証左とすることはできない。

八  争点8(被告表示二〈1〉ないし〈6〉のいずれかが誤認惹起表示に当たる場合、被告前田硝子は被告渡辺と共同責任を負うか)

【原告の主張】

1 被告前田硝子は、かつて原告との取引を検討する段階において、ワタライトクロスについて加熱時間を一二時間とする試験を実施し、甲C第二号証の試験結果を得た(前記二【原告の主張】2)。ところが、被告前田硝子の担当者は、この試験結果の数値では商品の性能を高く見せられないとして、加熱時間を三〇分とする試験を主張し、原告はこれを受け入れられないとしたため、結局取引が終わつたことがある。

被告前田硝子は、このように自ら一二時間加熱の試験まで実施しておきながらこれを使わず、不正確な試験結果である丙第二、第三号証の数値を被告渡辺に提供したのであり、その態度は甚だ不公正であり、ガラスの専門メーカーとしてガラスの物性については被告渡辺よりはるかに詳しいのであるから、責任は極めて大きい。

2 被告渡辺は、すべて被告前田硝子の提供した資料に基づいて被告広告二1、2を作成しているのであり、この点で被告前田硝子の関与の度合いは甚だ大きい。

しかも、被告渡辺は、被告広告二1、2を発行する前に、被告前田硝子にその都度見せており、これに対して被告前田硝子は何ら異議を述べなかつたのであるから、被告前田硝子は被告渡辺がした被告表示二〈1〉ないし〈6〉をすべて承知していたことは明らかである。

3 以上の事実から、被告表示二〈1〉ないし〈6〉につき被告前田硝子と被告渡辺の間に通謀があつたものであり、仮に通謀まではなくとも被告前田硝子が右表示につき原因を与え、かつその表示を放置したことについて責任があるというべきである。

【被告前田硝子の主張】

1 被告前田硝子は、原告との取引を行うために甲C第二号証の試験を行つたものではない。

原告は、被告前田硝子の担当者が、甲C第二号証の試験結果の数値では商品の性能を高く見せられないとして、加熱時間を三〇分とする試験を主張したとするが、右担当者は、甲C第二号証の結果に基づき製品改良の余地があることを述べ、試験時間については同業他社に倣つて三〇分とすることを提案したのである。

2 被告渡辺は、被告前田硝子の提供した資料だけを参考にしたのではなく、自ら行つた試験や自ら収集した情報をもとに、自己の責任で被告広告二1、2のカタログを作成したのである。

3 被告渡辺は、被告広告二1、2を作成した後にこれを被告前田硝子に見せているものであり、事前に被告前田硝子に見せているものではない。

なお、被告前田硝子は、被告渡辺のカタログについて異議を述べる法的義務を負つていない。

九  争点9(被告らが損害賠償責任を負う場合に、原告に賠償すべき損害の額)

【原告の主張】

1 前記三【原告の主張】1のとおり、原告は、昭和六二年まではダクト材の売上げを伸ばしたが、原告と同時期の同年一〇月頃から石綿以外の素材によるダクト材の製造販売を始めた被告アズミ、被告渡辺、訴外株式会社アサヒ産業及び訴外三喜工業株式会社らが、被告表示一及び二のように製品の品質、性質を大幅に偽る表示をパンフレット等において繰り広げた結果、顧客は右各虚偽の表示に欺かれ、取引対象を原告製品から右各社の製品に切り換えるという事態が出現するところとなつた。

右現象は昭和六三年春から顕著となり、以後原告の売上げは減少の一途をたどつた。かかる売上げの減少について、原告側には何ら原因がなく、すべて被告らの誤認惹起表示によるものである。すなわち、ダクト材については、耐熱温度が生命というべきものであり、これを大幅に偽つて高温の表示をすれば顧客はそちらを選択することになるし、また、ダクト材の不燃認定をあたかも正規のもののように表示すれば、顧客はそれを大いに重視することになる。

2 原告の販売するダクト材(フランジガスケット材及びたわみ継手材)の昭和六二年度の売上額と比較して昭和六三年度以降の毎年の売上げの減少額を算出し、これに利益率三〇パーセントを乗じたものが原告の逸失利益であり、その合計は七九九一万八三二七円となる(甲A第二号証の1・2)。これに昭和六二年以前の売上げ減少分を加えれば、原告の損害は総計八〇〇〇万円を下ることはない。

3 他方、原告が損害賠償を求める相手方としている競業者は前記四社であるところ(他にみるべき競業者はいない。)、右四社の規模はほとんど同等であり、原告が被つた損害も四社ほとんど同一の影響によるものであるから、右八〇〇〇万円を四等分して、本件では被告アズミ及び被告オリベストに対し連帯して二〇〇〇万円の支払を、被告渡辺及び被告前田硝子に対し連帯して二〇〇〇万円の支払を求めるものである。

4 カロリンメックスについての被告アズミの主張は、全く事実に反する(後記一〇【原告の主張】3)。

カロリンメックスは原告がノンアスベスト製品として新規に製造、販売したものであるが、その色が白色系であつたことから、被告らがこれは石綿製品であると悪意ある宣伝をしたため、全く売上げが伸びなかつたのである。

5 被告アズミ及び被告前田硝子は、原告製品の売上げの減少は被告らの製品より単価が高いことによるものである旨主張する。

しかし、そもそも石綿製品の当時から、原告製品は被告らの製品より二割ないし三割程度高かつたのであり、それにもかかわらず原告製品は相当の売上げを確保していたのであるから、右主張はこじつけである。

原告が現在販売しているフランジガスケット材は、「糸状の…飛散のおそれがない」ものとする、との機械設備工事共通仕様書の規定に従い、アルミ箔のラップで飛散防止措置がとられているのに対して、被告らの製品は何ら飛散防止のための措置がとられておらず、被告アズミの製品は糸状ですらない。原告製品が高いのは、それだけ品質が優れているからであつて、それが売上げの減少に直接結びつくはずはない。

6 被告アズミ及び被告前田硝子は、原告の営業の仕方を問題にするが、原告の営業スタイルの基本は、石綿製品の当時から、カタログを顧客に大量に送付して注文を受ける、というものであり、この点は被告らも同様である。そして、石綿製品よりノンアスベスト製品の方が高価であることを考えると、通常であれば売上げが減少することは考えにくい。

このような営業形態の場合、決定的に影響が大きいのは右のように送付したカタログの記載内容であり、顧客は、特に製品の耐熱性能、それを端的に示す不燃認定番号及び耐熱温度の表示に注目するのである。原告がこの点について許される限り公正な記載をしたのに対し、被告らは不当な不燃認定番号や不当に高い耐熱温度を表示して顧客を欺いたのである。

【被告アズミの主張】

被告表示一〈1〉ないし〈6〉と原告製品の売上げの減少との間に因果関係はない。

1 原告製品の売上げが減少したのは、原告が製造、販売していたカロリンメックスの素材が実は石綿に過ぎないことが判明したため大手設備業者や設計業者に対する原告の信用が著しく失墜したこと(後記一〇【被告アズミの主張】3)によるものである。

2 原告が現在製造、販売しているMK二七〇等の製品は、被告アズミが製造、販売している被告商品一に比べ単価が高いため、空調設備業者は原告製品の使用を避けているものである。

3 被告アズミは、原告が平成元年七月頃にMK二七〇等のカタログ(甲A第一号証)を作成するより二年以上も早く昭和六一年頃に被告広告一1(ダクトシール見本帳)を作成して販売活動をしている。パンフレットの作成されていない段階で有効な販売活動ができるはずはなく、原告製品の売上げが伸びなかつたのは当然である。

また、被告アズミは、その製品の七割程度を、販売業者を通じて空調設備業者に販売しているのに対し、原告は、販売業者とのトラブル等による関係悪化により、直接ダクト工事会社に販売することの方が多くならざるを得なかつた。被告アズミのように販売業者を通じて販売する方が、機動的かつ広範囲に販売活動ができ、売上げも増加するのが当然である。

4 原告援用の甲A第二号証の1・2記載の売上げには、フランジガスケット材の売上げだけではなく、その他の製品の売上げも含まれているのであり、一方、原告が本件において被告アズミの製品との競合を主張するのはフランジガスケット材についてのみであるから、右書証は、被告アズミのフランジガスケット材と原告のフランジガスケット材とが競合したことによる損害の証拠とはならない。

【被告渡辺の主張】

原告製品と被告渡辺の製品とは、物性、単価、販売方法のいずれも異なり、被告広告二1及び2と原告製品の売上げ減少との間に因果関係はない。

【被告前田硝子の主張】

原告製品の売上げの減少は、原告がダクト工事業者にカタログを送付するだけの営業活動しかしていないこと、原告製品は被告らの製品に比べて三割ないし五割も高いことによるものである。

一〇  争点10(原告の差止請求、損害賠償請求は、信義則に反するか)

【被告アズミの主張】

原告自身、以下のような極めて悪質な誤認惹起表示を行つており、原告が被告らに差止請求や損害賠償請求をするのは信義則に反する。

1 原告は、原告製品カロリンメックスのカタログ(乙B第五号証)において、グラスウールを基材として使用した製品が存在しないにもかかわらず、被告オリベストがボーロイドG(素材はグラスウールフェルト)について取得した不燃認定番号(不燃(個)第一八二一号、建設省告示二九九九号)を表示し、さらに「屋根三〇分耐火(R-〇一二六)」の表示をしており、また、ボーロイドKを材料として使用した製品が存在しないにもかかわらず、被告オリベストがボーロイドKについて取得した不燃認定番号(不燃(個)第一〇五一号、第一〇五九号、第一四一五号)を表示している。右表示は、カロリンメックス(MK五五〇、五六〇、五八〇、五一〇、三〇〇)があたかも右不燃認定番号を取得しているかのように誤解させる誤認惹起表示である。原告は、被告表示一〈1〉〈2〉〈5〉につき、主たる用途を定めて取得された不燃認定番号を用途の異なる製品について掲げることは誤認惹起表示に当たる旨主張しておきながら、自らは不燃認定番号を取得した素材を使用すらしていないのに、不燃認定番号をカタログに掲載するという悪質かつ完全に誤つた表示をしているのである。

2 原告は、右カタログに、カロリンメックスが夢の繊維であるとして、「特許出願済」とも表示しているが、実際には実用新案登録出願をしていたに過ぎない。原告は特許と実用新案を混同していただけのことであるとするが、原告のチラシ(乙B第七号証)では特許出願と実用新案登録出願が併記されており、原告は両者が異なることを明瞭に認識していたのであるから、意識的に虚偽の表示をしたものとみるべきである。

3 原告は、右カロリンメックスにつき、石綿を超えた無公害の新耐熱繊維、夢の新素材として大々的に販売を開始し、前記カタログ(乙B第五号証)において、「ガラスやセラミック原料などの主原料である砂塵や陶器など其の他耐熱性、粉末原料を水溶性液及耐熱性液でまぜ合わせ、高圧力で射出させて紡糸した繊維」としていたものであるが、セラミックファイバーについて右のような製造方法が不可能なことは明らかであり(乙B第一六、第一七号証)、カロリンメックスの素材は実は石綿に過ぎない(乙B第九、第一〇号証)ことが判明したため、大手設備業者や設計業者に対する原告の信用が著しく失墜したものである。

神戸市役所建築工事の際に、採用するフランジガスケット材がカロリンメックスからアズミシールAに変更されたのは、カロリンメックスが石綿製品であることが判明したからに外ならない(乙B第八号証)。

4 また、原告は、現実には改定されていない建設省営繕部工事仕様が改定されたとの虚偽の広告を業界紙(乙A第一六号証の4)に掲載し、ダクト工業団体に対して誤認を生ぜしめる表示をしているばかりか、右広告において、原告のMKアルミラップガスケットは昭和四五年建設省告示第一八二八号の定める試験に合格していないにもかかわらず、右試験に合格したかのような誤認を生ぜしめる表示をしており、これを訂正する内容の広告もしていない。

【被告オリベストの主張】

原告の製品は、カタログ(甲A第一号証)において不燃性である旨表示されているが、昭和四五年建設省告示第一八二八号の定める試験に合格しておらず、建設材料として不燃性を有しないから、右表示こそ誤認惹起表示に外ならず、まずその是正がなされるべきであつて、クリーンハンドの原則から原告には他社を論難する資格がない。

もつとも、原告製品は運輸省の交通安全研究所で鉄道車両用材料として「不燃性」の判定を受けているようであるが(甲A第一号証)、これが建設材料としての不燃の定義と一致するか甚だ疑問であり、建設材料である以上、建築基準法上の定義によつてその品質が問題とされ、表示がされなくてはならないはずである。

【原告の主張】

被告アズミ及び被告オリベストは、原告自ら種々の誤認惹起表示をしているとするが、根拠のない非難である。そもそも、本件で問題となつているのは被告らの広告における品質表示の不当性であり、この問題を棚に上げて原告を逆に非難すること自体、問題の本質をそらせようとするものである。

1 原告製品カロリンメックスのカタログ(乙B第五号証)における不燃認定番号の表示は、右カタログの作成段階で被告オリベストの担当者があたかもフランジガスケット材に使用可能な番号であるかのように説明したため原告が誤つて記載したのであり、原告は右誤りに気付いてから速やかにこれを訂正したカタログ(乙B第六号証)に切り換え、右カタログ(乙B第五号証)は廃棄の処置をとつており、その間はせいぜい二週間程度である。原告はこのように速やかに自主的改善措置を講じているのであり、本訴提起後も自己を正当化しようとする被告らの態度との間には大きな違いがある。

2 カロリンメックスについての「特許出願済」の表示は、原告が特許と実用新案を混同していただけのことであり、虚偽というほどのものではない。

3 被告アズミがカロリンメックスの素材は石綿に過ぎないとして、その証拠として援用する乙B第九、第一〇号証は、試験に供された試験体自体の確認もできないものであり、到底受け入れられない。財団法人化学品検査協会の試験報告書(甲A第二三号証)によれば、カロリンメックスは「石綿の検出を認めず」とされており、非石綿製品であることが明らかである。被告アズミが、神戸市役所建築工事の際に、採用するフランジガスケット材がカロリンメックスからアズミシールAに変更されたのは、カロリンメックスが石綿製品であることが判明したからであるとして援用する乙B第八号証によれば、むしろ、カロリンメックスを排除した上で石綿製品の使用を検討していること、したがつて、カロリンメックスが石綿製品であるという判断で排除されたものではないことが明らかである。

4 業界紙の広告(乙A第一六号証の4)において、原告が「平成三年度建設省営繕部工事仕様が改定されました。」と記載したのは、右広告の締切時点で、平成三年度に機械設備工事共通仕様書の改定が予定されていたことが客観的事実であり、国会答弁においてもその旨の答弁がなされていたからであり、このような状況のもとで、原告が広告の締切との兼ね合いで共通仕様書の改定は間違いないものと考えて、改定が実施されたような表現をしたとしてもやむを得ないところというべきである。しかも、右広告に記載されている内容は、仕様書改定委員会から渡された文書(甲A第一四号証の1)に基づき、昭和四五年建設省告示第一八二八号の試験(表面試験)にも合格した事実(甲B第八号証の試験体A、B)を踏まえてのことであり、すべて事実に合致している。

5 原告製品がフランジガスケット材として必要な性能を十分に備えていることは、前記三【原告の主張】2記載のとおりである。

第四  争点に関する判断

一  争点1(被告表示一〈1〉ないし〈6〉は誤認惹起表示に当たるか)

1  建設省不燃認定番号(被告表示一〈1〉〈2〉〈5〉、不燃断熱シール(被告表示一〈3〉)

(一) 建築基準法二条九号は、不燃材料の定義として、「コンクリート、れんが、瓦、石綿スレート、鉄鋼、アルミニューム、ガラス、モルタル、しつくいその他これらに類する建築材料で政令で定める不燃性を有するものをいう。」と定め、これを受けて建築基準法施行令一〇八条の二は、「法第二条第九号に規定する政令で定める不燃性を有する建築材料は、建設大臣が、通常の火災時の加熱に対して次の各号(建築物の外部の仕上げに用いるものにあつては、第二号を除く。)に掲げる性能を有すると認めて指定するものとする。一 燃焼せず、かつ、防火上有害な変形、溶融、き裂その他の損傷を生じないこと。二 防火上有害な煙又はガスを発生しないこと。」と定めている。そして、昭和四五年建設省告示第一八二八号(甲A第七号証)は、「建築基準法施行令(昭和二五年政令第三三八号)第百八条の二の規定に基づき、不燃材料を次のように指定する。」とし、その「第一総則」は、「不燃材料は、第二に規定する基材試験及び第三に規定する表面試験を行ない、それぞれの試験に合格したものとする。」と定めているが、右基材試験及び表面試験は、それぞれ単一の試験方法が定められているのであつて、試験体の用途ごとに別個の試験が定められているわけではない。

(二) しかして、証拠(甲第B第一号証の5・10ないし12、第一一号証、第一七号証の1・2、乙A第一八号証、乙B第二〇号証の1、被告アズミ代表者、証人大久保幸一)及び弁論の全趣旨によれば、断熱亜鉛鉄板工業会は、ロックウールフェルトを亜鉛鉄板と貼り合わせたものにつき、昭和四五年建設省告示第一八二八号に規定する試験に合格し、材料の一般名を「無機質断熱材貼り亜鉛鉄板」、主たる用途を「建築物の屋根・壁・天井」と記載して建設大臣に対し不燃材料の認定を申請し、昭和五四年二月七日、建築基準法二条九号に規定する不燃材料と認定され(認定番号・不燃第一一三一号)、次いで、右断熱亜鉛鉄板工業会の準会員である被告オリベストは、昭和五八年頃、ロックウールフェルトを素材とするボーロイドDを亜鉛鉄板と貼り合わせたものにつき、同一の認定番号で追加認定を受けたこと、また、被告オリベストは、グラスウールフェルトを素材とするボーロイドG単体につき、右昭和四五年建設省告示第一八二八号に規定する試験に合格し、材料の一般名を「ガラスウールフェルト(ボーロイドG)」、主たる用途を「建築物の屋根・壁・天井」と記載して建設大臣に対し不燃材料の認定を申請し、昭和六〇年四月二四日、前同様の不燃材料と認定されたこと(認定番号・不燃第一八二一号)、本件訴訟提起後の平成三年六月七日、被告アズミ代表者が建設省住宅建築指導課を訪れて担当者に対し、不燃認定番号を主たる用途以外の製品に表示してもよいか、鉄板を貼り合わせた状態で右建設省告示の規定する試験に合格したものを、鉄板を貼らない状態の製品について表示してもよいかと質問したところ、担当者は、個人的見解として、いずれも好ましくないと回答したこと、また、被告オリベストの従業員が平成三年頃に建設省住宅建築指導課を訪ねた際も、担当者は、個人的見解として、被告オリベストの取得した不燃認定番号を被告アズミのフランジガスケット材に表示することは好ましくないと回答したこと、一方、本件訴訟提起前の平成三年三月二二日頃、原告代理人弁護士が、内容証明郵便(甲B第一七号証の1)により被告オリベストに対し、被告アズミはアズミシールA及びアズミシールFについてシール材ではなく屋根材としての不燃認定番号を表示しているとしてその是正を申し入れたのに対し、被告オリベストは、同年四月二二日付内容証明郵便(同号証の2)により、ボーロイドD、ボーロイドGの不燃認定番号は建築材料一般の不燃材としての認定番号であり、屋根材やダクト材などに用途を限定して認定されたものではないとし、なお、被告アズミのした表示が不当であると判断するのであれば被告アズミに申入れをするのが筋である旨回答したこと、しかし、本件訴訟提起後、被告アズミが平成四年から被告広告一1(ダクトシール見本帳)については不燃認定番号を表示しないもの(乙第四号証)に変更したところ、(後記四参照)、被告オリベストは、同年三月一三日頃、被告アズミに対し、内容証明郵便(甲B第一一号証)により、被告アズミが不燃認定番号を抹消したカタログに変更したことは承知したが、配付済みのカタログによりアズミシールA、アズミシールFについて取得した不燃認定番号であると誤認されるおそれがあるので、配付済みカタログの回収と新しいカタログとの差し替えを求めるとの申入れをし、さらに、同年四月一〇日頃、被告アズミに対し、「屋根裏貼り用以外への『ボーロイドD』及び『ボーロイドG』の販売中止に関するお願い」と題する書面により、同年七月一日からボーロイドD及びボーロイドGはこれら製品が取得する建設大臣認定・指定番号が表示できる屋根裏貼り向けに限定して販売することになつた旨通知したこと(乙A第一八号証)が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(三) 右(一)、(二)によれば、昭和四五年建設省告示第一八二八号は、建築基準法二条九号、建築基準法施行令一〇八条の二に基づき、「不燃材料」を定義するべく、特に用途を限定せずに、その建築材料が「不燃材料」に該当するか否かを判定する単一の試験方法を定めるものであり、建設大臣による不燃材料の認定は、右建設省告示に定める試験に合格した個々の建築材料につき、申請に基づき主たる用途を定めて行うものであると認められる(この点については、原告と被告アズミ及び被告オリベストとの間に実質的な争いはないものと解される。)。

したがつて、右建設省告示に定める試験に合格すれば、一応建築基準法二条九号に定める不燃材料に該当するということができるが、右建設大臣による不燃材料の認定を受けて初めて、不燃材料に該当することがいわば公的に認知されたということができるものである。

そして、不燃材料の認定は主たる用途を定めてなされるものであり、被告表示一〈1〉〈2〉〈5〉の不燃認定番号も、前示のとおりいずれも主たる用途を「建築物の屋根・壁・天井」として建設大臣の認定を受けた際に付された認定番号であり、主たる用途を「フランジガスケット材」として認定を受けたものではないから、「建築物の屋根・壁・天井」とは全く用途の異なるフランジガスケット材について使用する右各表示は、誤認惹起表示に当たるといわざるを得ない。この点につき、被告アズミは、フランジガスケット材の需要者は空調設備業者に限定されており、空調設備業界においては、フランジガスケット材を主たる用途とする不燃材料の認定制度が存在しないことは周知の事実であるから、不燃認定番号が表示されていれば当然その素材が受けたものであると理解されているし、また、品質明細書等に、各商品についての試験結果報告書や試験成績書、不燃材料の認定書を添付しているから、これらの添付資料を見れば不燃材料認定の具体的内容が容易に判読できるのであり、したがつて、被告アズミが広告に不燃認定番号のみを表示し、右認定が主たる用途を屋根材とするものであることを明示しなくとも、空調設備業者をしてフランジガスケット材として不燃材料の認定を受けたものと誤認させることはなく、被告表示一〈1〉〈2〉〈5〉は誤認惹起表示に当たらないと主張するが、空調設備業界においてフランジガスケット材を主たる用途とする不燃材料の認定制度が存在しないことが周知であると認めるに足りる証拠はなく、また、主たる用途を明示することなく不燃認定番号のみがフランジガスケット材の広告に表示されていれば、これが強く印象づけられ、たとえ試験結果報告書等が添付されていたとしても、空調設備業者がそれらを仔細に検討するとは限らず、当該不燃認定番号はフランジガスケット材について取得されたものと考えるのが通常であると考えられるから、右主張は採用できない。

被告アズミは、そもそも、昭和四五年建設省告示第一八二八号に定める試験については、主たる用途や構造に関する規定が存在しないのであるから、本来右試験に合格すれば、用途等に関係なく不燃材料の認定を受けられるはずであり、屋根材を「主たる用途」とする不燃材料の認定も、「主たる用途」という文言を用いている以上、「従たる用途」というべき用途を前提にしており、不燃材料の認定において用途による限定を加える趣旨とは解し難いとも主張するが、「主たる用途」を定めて不燃材料の認定を受けたものである以上、用途による限定を加える趣旨と解する外はない。

(四) また、被告表示一〈1〉の不燃認定番号(不燃第一一三一号)は、ボーロイドDを亜鉛鉄板と貼り合わせたもの(無機質断熱材貼り亜鉛鉄板)につき取得したものであることは前示のとおりであるところ、アズミシールAの基材は、右無機質断熱材貼り亜鉛鉄板から亜鉛鉄板を取り去つた後のボーロイドD単体であるから、アズミシールAは、昭和四五年建設省告示第一八二八号の定める試験に合格したものとも、不燃材料の認定を受けたものともいえない。甲B第二二号証によれば、現に、鉄板と貼り合わせられていないボーロイドD単体は、右建設省告示の定める試験(表面試験)に不適合とされていることが認められる(なお、原告は、ボーロイドDが「不燃」「準不燃」よりも耐火性に劣る「難燃」試験にも合格しないとして甲B第八号証を引用するが、同号証に「難燃に不合格」と表示されているロックウールフェルトがボーロイドDであると認めるに足りる的確な証拠はない。)。不燃材料の認定(不燃認定番号の取得)が右建設省告示の定める試験に合格することを前提としていることは前示のとおりであるから、この点からも、アズミシールAに不燃認定番号を表示するのは誤認惹起表示に当たるというべきである。

被告アズミは、フランジガスケット材は、鉄板に貼つた状態で使用されることを当然の前提にしているから、アズミシールAをフランジガスケット材として使用した時点では、「無機質断熱材貼り亜鉛鉄板」としての要件を当然に満たすことになり、アズミシールAを鉄板に貼らずに使用する場合が想定されない以上、無機質断熱材貼り亜鉛鉄板として不燃認定を受けていることを表示したからといつて、誤認惹起表示には該当しないと主張するが、「無機質断熱材貼り亜鉛鉄板」として昭和四五年建設省告示第一八二八号に規定する試験を実施した際にそのような状態を想定していたとは考えられないから、右主張は採用することができない。

被告オリベストは、鉄板貼りの状態で不燃認定を受けた以上、その状態で製品とする場合以外は不燃材料である旨や不燃認定番号を表示してはならない、という規制は全くないと主張するが、仮にそうであるとしても、鉄板を貼り合わせた状態で不燃認定を受けたものである以上、不燃認定番号を表示する際には、アズミシールAあるいはその基材であるボーロイドD単体ではなく、これに鉄板を貼り合わせたものについて取得した不燃認定番号である旨を明記しなければならないことは当然というべきである。

(五) 一方アズミシールFについて「不燃断熱シール」とする被告表示一〈3〉については、アズミシールFの基材であるボーロイドGは単体で(すなわち亜鉛鉄板と貼り合わせずに)昭和四五年建設省告示第一八二八号の試験に合格しており、建築基準法二条九号にいう不燃材料に該当するのであるから、これをもつて誤認惹起表示とまでいうことはできない。原告は、業界では「不燃」という表示を用いると、右建設省告示に定める試験に合格して不燃認定番号を取得した製品と受け止められるから、被告表示一〈3〉も誤認惹起表示に当たると主張するが、採用することができない。

2  耐熱温度三〇〇度(被告表示一〈4〉〈6〉)

(一) 原告がアズミシールA、ロックウールフェルトの耐熱温度は三〇〇度であるとはいえないとして援用する各証拠について、検討する。

(1) 原告は、アズミシールAについて、大阪府立産業技術総合研究所に通気度試験を依頼し、常温での通気抵抗が一・五九KPa・s/メートルであるのに対し、三〇〇度で三〇分間処理するとその通気抵抗は〇・九四Pa・s/メートルに減少するとの試験結果(甲B第一九号証)を受領した。そして、その報告書に貼付された試験体のうち、三〇〇度で三〇分間処理したものは一見して熱で炭化して変質している。

(2) 原告は、ボーロイドDについて財団法人化学品検査協会大阪事業所に耐折れ試験を依頼し、常態での耐折強さが最大値一二回、最小値九回、平均値一〇回であるのに対し、三〇〇度(±三度)で三〇分熱処理後室温まで放冷したものの耐折強さは〇回(非常にもろく耐折れ試験機に取り付けた時に破損した)との試験結果を得た(甲B第二一号証)。

(3) 原告は、耐熱温度は、当該素材の加熱状態での引張強度と平常時の引張強度を比較することにより判定することができるところ、アズミシールAの常温での引張強度は、縦四キログラム、横四キログラムである(甲B第一号証の4)のに対し、石綿では、常温の引張強度が最も弱いもの(等級B)でも、縦一六キログラム、横一二キログラムであり、これに見合う強熱減量(三一・〇パーセント以下)及び石綿含有率(八〇パーセント以上)から耐熱温度(使用最高温度)を割り出すと二三二度となり(甲B第四号証、五〇、五一、五三頁)、アズミシールAの引張強度はこれよりはるかに弱いのであるから、その耐熱温度は約一五〇度程度に過ぎないと主張するが、右は、石綿の強熱減量及び石綿含有率とこれに対応する使用最高温度の基準(甲B第四号証)からアズミシールAの耐熱温度を導き出そうとするものであるところ、右基準を石綿とは全く性質の異なるロックウールフェルトにそのままあてはめることができると認めるに足りる証拠はない。

(4) 原告が日東紡建工株式会社の富田光から送付を受けた資料(甲B第七号証)によれば、同社製造販売にかかるロックウールフェルト「ルーフネン」は、二〇〇度に加熱すると表面が徐々に茶色に変色し、ごく軽いこげくさい臭いがして薄い煙が出、三〇〇度に加熱すると表面が茶褐色となりこげ臭く煙が盛んに出るものと認められる。そして、同人作成の「ルーフネン(L)の耐熱性について」と題する書面(甲B第一五号証)には、ルーフネン(L)を物性、形状の変化なく使用できる限界温度は一五〇度以下である旨記載され、追記として、ルーフネン(L)はボーロイドDと耐熱性能が同等である旨記載されている。なお、同種類のロックウールフェルトは、日東紡建工株式会社(ルーフネン)及び被告オリベスト(ボーロイドD)二社のみが製造販売している(甲B第七号証、証人大久保幸一)。

(二) 一方、証拠(乙B第一一号証、被告アズミ代表者)によれば、被告アズミは、空気調和・衛生工学会規格による空気調和設備工事仕様書(乙B第一九号証)が、防火ダンパについて、「火災により煙が発生した場合または火災により温度が急激に上昇した場合に、自動的に閉鎖する機構」で、「作動温度は、原則として排煙ダクトに設置する場合は二八〇度」と規定していることから、右仕様書によれば、二八〇度に至つた段階で防火ダンパは自動的に閉鎖するので、鋼製フランジに装着されるという現実の使用条件のもとで二八〇度の高温に三〇分間置かれた状態でフランジガスケット材の漏気量に著名な変化がなければ、排煙用ダクトのフランジガスケット材に要求される機能は満たしているという見地のもとに、財団法人日本総合建築試験所に依頼して、二個の鋼製フランジ付ダクトのフランジ四隅をボルトで結合する際に気密材としてロックウールフェルト(ジャパンルーワ株式会社販売にかかる「MEZフネンパッキン」)を用いたものを加熱してフランジの表面温度が平均二八〇度に達してから三〇分間継続し、その後自然冷却し、加熱前後の漏気量を測定する試験を実施した結果、加熱後の漏気量は加熱前より一二パーセント程度減少するという試験結果(乙B第三、第一八号証)を得たことが認められる。

(三) しかして、本件全証拠によるも、フランジガスケット材の耐熱温度を定める公的な基準が存在するものとは認められないところ、試験方法として、前記(一)の(1)及び(2)の試験のようにアズミシールA単独で加熱試験を実施するのは必ずしも適当とはいい難く((2)の試験については、フランジガスケット材について耐折強さを問題にすること自体疑問がある。)、むしろ、前記(二)の漏気量の試験のように、フランジガスケット材として実際に使用する状態に近付けて、ダクトの鋼製フランジに装着して加熱試験を行うことが適当というべきである(甲A第一六号証によれば、原告自身も、カロリンメックスについて、財団法人日本総合建築試験所に依頼して同様の方法で漏気量の試験を行つている。)。

しかしながら、右(二)の試験における試験体であるロックウールフェルト(MEZフネンパッキン)は、被告アズミがジャパンルーワ株式会社向けに、空気漏れがしにくくなるように特にシリコンを塗布して提供しているものであつて、アズミシールA(シリコンを塗布していない。)そのものではなく(被告アズミ代表者)、しかも、その加熱は、前記のようにフランジの表面温度が平均二八〇度に達してから三〇分間継続したというものであつて、その間フランジの四か所における測定温度は二八〇度から三〇〇度の間にあり、表面温度を平均三〇〇度にして継続したものではない。このことに、前記(一)(4)のとおり、日東紡建工株式会社は、その製造販売にかかるロックウールフェルト「ルーフネン」につき物性、形状の変化なく使用できる限界温度は一五〇度以下としており、そして、同社の富田光は前記甲B第一五号証において、ルーフネン(L)はボーロイドDと耐熱性能同等品であるとしているところ、同種類のロックウールフェルトを販売しているのは日東紡建工株式会社及び被告オリベストの二社のみであるというのであるから、日東紡建工株式会社においてもライバル社である被告オリベストのボーロイドDの分析、研究を尽くしているものと推認され、ルーフネン(L)はボーロイドDと耐熱性能同等品であるとする点は信用できると考えられることを併せ考えると、アズミシールAの正確な耐熱温度を認定するに足りる証拠は存しないといわざるを得ないものの、少なくとも三〇〇度に達するということはできないから、被告表示一〈4〉〈6〉は誤認惹起表示に該当するものというべきである。

二  争点2(被告表示二〈1〉ないし〈6〉は誤認惹起表示に当たるか)

1  「合格品」の表示(被告表示二〈1〉)

証拠(丙第一三、第一八号証、証人吉岡大輔)によれば、被告渡辺は、被告広告二1作成の際、昭和六〇年版の機械設備工事共通仕様書において、フランジ用パッキンの仕様が「JIS R三四五〇(石綿糸)を使用した厚さ三ミリメートルの石綿テープとする。」とされていたが、フランジガスケット材についてノンアスベスト製品の仕様が未だ定められていなかつたことから、ワタライトMGクロスと石綿の引張強度を比較すればよいと考え、後記2(二)(3)の大阪市立工業研究所の試験結果(丙第一号証)を検討した結果、ワタライトMGクロスの引張強度はJISR三四一〇の石綿布の引張強度(甲A第九号証)を上回るとして、被告表示二〈1〉を掲載したものであることが認められる。

しかして、被告渡辺は、被告表示二〈1〉は機械設備工事共通仕様書の基準に合格する、すなわち、右の基準の数値をクリアーしている製品であるとの表示であり、虚偽の表示ではないと主張するが、被告広告二1作成当時から現在に至るまで、ノンアスベスト製品のフランジガスケット材について機械設備工事共通仕様書に合格するか否かを判定する制度はなく、また、機械設備工事共通仕様書において、フランジガスケット材について石綿製品の仕様に代えてノンアスベスト製品の仕様が定められたのは平成元年版のことである(甲A第四、第一二号証、丙第一八号証、証人吉岡大輔、原告代表者、弁論の全趣旨)にもかかわらず、「合格品」と表示すれば、合否の判定権限を有する機関が「合格」との判定を下したという印象を与えるだけでなく、引張強度の数値の比較のみにより、ノンアスベスト製品であるワタライトMGテープが石綿製品の仕様(当然石綿の特性を考慮して定められたものである。)に適合すると判断すること自体疑問である(現に、機械設備工事共通仕様書の平成元年版〔甲A第四号証〕、平成五年版〔甲A第一七号証〕に定めるフランジ用ガスケットの各仕様〔ノンアスベスト〕は、昭和六〇年版に定めるフランジ用パッキンの仕様〔石綿糸〕と全く異なつている。)から、被告表示二〈1〉は誤認惹起表示に当たるといわざるを得ない。

2  引張強度(被告表示二〈2〉〈4〉)

(一) 被告表示二〈2〉〈4〉について、被告渡辺及び被告前田硝子は、これはワタライトMGテープ、ワタライトSWテープの基材であるワタライトクロスのものであつて、ワタライトMGテープ、ワタライトSWテープのものではない旨主張し、原告は、両者の引張強度を区別するのは無意味であるし、また、テープの強度はその基材の強度で表示するのが業界の通例であり、さらに被告広告二1及び2を見る顧客は、被告表示二〈2〉〈4〉をワタライトMGテープ、ワタライトSWテープの表示と受け取るはずであると主張する。

被告広告二1には、「このテープは不燃性であり、耐熱性、断熱性に優れた一〇〇パーセント無機質のソフト性長繊維ガラスの糸で製織したワタライトMGクロスに解れ防止加工を施し、片面粘着加工をして所定の巾にスリットしたテープです。」「テープの寸法及び基材のワタライトMGクロスの特性は下記の通りです。」として、「ワタライトMGテープ寸法」及び「基材ワタライトMGクロス特性」の表題のもとに、それぞれのデータを示す表が別個に記載されており(被告表示二〈2〉は後者に記載されている。)、また、被告広告二2には、「無機質のソフト性長繊維ガラス糸で製織したワタライトクロスに解れ防止加工を施し片面に粘着加工をして所定の幅にスリットしたテープが粘着付ワタライトSWテープです。」「特性 基材は無機質の燃えないガラス繊維製品であり、耐熱性、断熱性に優れ作業の簡易化と施工時間の短縮に大いに寄与します。」との記載の後に、「基材ワタライトクロス特性」と題する表があり、そこに被告表示二〈4〉が記載されている。そうすると、被告広告二1及び2において、テープとその基材は明確に区別されており、被告表示二〈2〉〈4〉は確かに直接的にはワタライトクロスについての表示であり、その限度では被告渡辺及び被告前田硝子主張のとおりである。しかし、原告主張のように、基材であるワタライトクロスの特性とは別にワタライトMGテープ、ワタライトSWテープの特性が区別して書かれているわけではないから、ワタライトクロスに一定の加工を施したものであることが示されているとはいえ、ワタライトMGテープ、ワタライトSWテープの特性はワタライトクロスの特性とさしたる違いはないものと受け取られると考えられるので、以下この見地から検討する。

(二) 証拠(甲A第一二号証、甲C第二号証、丙第一ないし第三号証、第一八号証、証人吉岡大輔、原告代表者)及び弁論の全趣旨によると、以下の(1)ないし(4)の事実を認めることができる。

(1) 被告前田硝子は、「石綿代替ガラスクロス」(厚さ二・七ミリメートル、質量七二一・六グラム/平方メートル)について、昭和六〇年七月一一日、和歌山県工業試験場に委託して「厚さ、質量、磨耗強さ、引張り強さ及び伸び率(二件)耐熱試験{1}・{2}」の試験を行つたところ、耐熱試験{1}(試料を五五〇度で一二時間加熱した後、常温で一二時間放冷するというサイクルを五日間繰り返した後、引張り強さ及び伸び率を測定)において、右加熱後の引張強度につき縦方向二六・三kgf、横方向一六・三kgfとの結果を得た(甲C第二号証)。

(2) 被告前田硝子は、右の引張強度の数値が断熱用ガラスクロスとしては満足すべき成績ではなかつたことから、ガラスクロス(ワタライトクロスの素材であるTR九〇一〇。厚さ一・七ミリメートル、質量八七二・〇グラム/平方メートル、幅五〇ミリメートルの試験片)について、昭和六〇年一〇月一五日、前回と同じく和歌山県工業試験場に委託して「質量、厚さ、磨耗強さ、引張強さ、耐熱性」の試験を行つたところ、五五〇度の加熱を三〇分行つた後の引張強度につき縦三九・七kgf、横三五・三kgfとの結果を得た(丙第二号証)ので、これを製品化することにした。なお、甲C第二号証の試験における試料と丙第二号証の試験における試料(ワタライトクロスの素材であるTR九〇一〇)を比較すると、甲C第二号証のものの方が厚さが大で質量が小さい(ただし、引張強度の数値が両試験で大きく異なるところ、被告前田硝子は、丙第二号証の試験に供したガラスクロス〔TR九〇一〇〕は甲C第二号証の試験に供した「石綿代替ガラスクロス」に改良を加えたものである旨主張するが、両試験における加熱条件が大きく異なり、その程度改良を加えたものであるのかを認めるに足りる証拠はない。)。

(3) 被告渡辺は、昭和六一年三月一二日、ワタライトMGクロスの引張強度の試験を大阪市立工業研究所に依頼し、五五〇度で三〇分間加熱処理をしたときの引張強度につき縦一七・一kgf、横一一・四kgfという結果を得た(丙第一号証)が、この時の試験片が二五ミリメートル幅であり、石綿布の引張強度につきJIS規格の定める試験片は五〇ミリメートル幅であるため(甲A第九号証)、石綿布と比較するには五〇ミリメートル幅のワタライトクロスについてのデータが必要であると考え、右研究所に問い合わせたところ、数値を二倍すれば良いという返事を得た。そこで、被告渡辺は、ワタライトクロスの物性を被告広告二1に記載するときに、右数値を二倍した数値と前記(2)の和歌山県工業試験場の試験結果の数値を参考にして被告表示二〈2〉の数値を決めた。

(4) また、被告渡辺は、昭和六三年五月二五日、和歌山県工業試験場に委託してワタライトクロスの「質量、厚さ、磨耗強さ、耐熱性、引張強さ」の試験を行い、常態での引張強度につき縦二四〇・三kgf、横二二七・三kgf、五〇〇度で三〇分加熱した後の引張強度につき縦四六・七kgf、横五五・七kgfという結果を得たので(丙第三号証)、被告広告二2に右常態での引張強度の数値を被告表示二〈4〉として記載した。

(三) 右(二)によれば、被告表示二〈2〉〈4〉はいずれも公的機関の試験結果に基づく数値であり、誤認惹起表示ということはできない(もつとも、被告表示二〈2〉は、「大阪市立工業研究所調」と付記しながら、右(二)(3)の丙第一号証の試験で得られた数値を二倍した数値より若干大きい数値になつているが、右(二)(2)の丙第二号証の試験で得られた数値の範囲内にあり、右(二)(4)の丙第三号証の試験で得られた五〇〇度三〇分加熱後の引張強度の数値をも考慮すると、不当であるとまではいえない。)。

原告はこの点について、ワタライトクロスの引張強度の数値は、和歌山県工業試験場における一二時間加熱状態での試験により得られた「縦二六・三kgf、横一六・三kgf」(甲C第二号証)が正しいのであり、被告表示二〈2〉の根拠となつた丙第一、第二号証の数値及び被告表示二〈4〉の根拠となつた丙第三号証の数値は、わずか三〇分の加熱状態での試験により得られた数値であるから、対象物の属性を正確に表したものとはいえず、誤認惹起表示に当たる旨主張する。しかし、被告表示二〈2〉は、三〇分加熱処理をした場合の引張強度であることが明記されており、また、被告表示二〈4〉の数値は、特に加熱処理をしたものの引張強度であると記載されているわけではなく(したがつて、常態での引張強度と解する外はない。)、その限りにおいては概ね正確な数値なのであるから、右主張は採用することができない。

また、原告は、被告表示二〈2〉について、被告広告二1の「基材ワタライトMGクロス特性」と題する表には幅の表示は全くなく、「ワタライトMGテープ寸法」と題する表には幅二五ミリメートル又は三〇ミリメートルと記載されているのであるから、誰も、表示されている引張強度の数値を五〇ミリメートル幅のものについての数値とは受け止めないと主張する(すなわち、右数値をもつて二五ミリメートル又は三〇ミリメートル幅のワタライトMGテープについての数値と誤認される旨主張する)が、被告広告二1にはワタライトMGクロスを所定の巾にスリットしたものがワタライトMGテープであるとの記載があり、テープとその基材であるクロスが同じ寸法であるとは認識されないと考えられるから、「ワタライトMGテープ寸法」と題する表と「基材ワタライトMGクロス特性」と題する表が明確に分けられている被告広告二1の体裁からは、そのような誤認のおそれがあるとは認められない。

3  耐熱温度五〇〇度(被告表示二〈5〉)

(一) ガラスクロスの耐熱温度については、現在のところ、その判定基準がJIS規格によつて規定されていないし、業界団体で定めた基準も存在しない(甲C第四号証の2、第七号証。被告渡辺もこのことを認めるところである。)。そのような状態のもとで耐熱温度を表示すれば、顧客は、耐熱温度をもつてその製品を安全に使用することができる温度であるという、漠然とした印象を受けるものと解される。

したがつて、被告表示二〈5〉が誤認惹起表示に当たるか否かは、ワタライトクロスをフランジガスケット材として使用する場合(結局、ワタライトテープとして製品化した場合ということになる。)において、五〇〇度で安全に使用できるか否かという見地から判断されるべきである。けだし、被告表示二〈5〉は「基材ワタライトクロスの特性」の表示ではあるが、フランジガスケット材としてのワタライトSWテープの広告の一部をなしており、そして、顧客にとつてフランジガスケット材の耐熱温度は極めて重要である(原告代表者、弁論の全趣旨)ところ、フランジガスケット材の広告に基材の耐熱温度として一定の温度が表示されていて、これとは別にフランジガスケット材たるワタライトSWテープ自体の耐熱温度が表示されていない以上、右耐熱温度は、フランジガスケット材として実際に使用する状態でも基材の状態とさしたる違いはなく基本的に維持されると受け取られるものと考えられるからである。

(二) 証拠(丙第一四、第一八号証、証人吉岡大輔の証言)及び弁論の全趣旨によれば、被告渡辺は、被告前田硝子から販売促進資料として交付されたパンフレット(丙第一四号証)に、ワタライトクロスの基材であるTR九〇一〇の耐熱温度につき五〇〇度と表示されていたので、その根拠につき特に被告前田硝子に確認することなくそのまま被告広告二2に被告表示二〈5〉として表示したことが認められる。

以下、右(一)の観点から検討する。

(1) 被告前田硝子の仕入先である日本電気硝子株式会社も所属する硝子繊維協会は、「ガラスクロスの使用温度の最高について」と題する原告宛書面(甲A第二六号証、弁論の全趣旨)において、ガラスクロスの耐熱性については、その使用条件、表面処理の性質等により一律に定義することは困難であるが、生機クロス(糊剤付)を対象とし、最高使用温度を「ある温度で加熱処理し、引張強度(常温測定)が略一定になつた時、引張強度保持率が五〇パーセントを確保できる温度」をいうものとして二三〇度としていることが認められる。

(2) 原告は、ワタライトSWテープについての通気度試験の結果(甲C第一〇号証)によれば、常温での通気抵抗が一・八三であるのに対し、五〇〇度で三〇分処理した時点での通気抵抗は〇・八一(常温時の約四四パーセント)に過ぎないから、フランジガスケット材としての機能を果たしえないと主張する。しかし、フランジガスケット材としての通気度の試験は、フランジガスケット材として実際に使用する条件に近付けて行うのが適当というべきであり、甲C第一〇号証の試験は必ずしも適切とはいえない(他方、被告渡辺主張のように、ワタライトSWテープはフランジとフランジの間に挟まれて使用されるからテープの表から裏への通気を問題にするのは意味がない、とまで断ずるのも相当でない。)。

(3) 前記のとおり、硝子繊維協会は、「ある温度で加熱処理し、引張強度(常温測定)が略一定になつた時、引張強度保持率が五〇パーセントを確保できる温度」をもつて最高使用温度としているところ、被告広告二2掲載の「ワタライトクロスと石綿布との比較」と題する表の数値によれば、ワタライトクロスの引張強度が常温時の引張強度の五〇パーセントを維持できる温度は三〇〇度と四〇〇度の間であることが明らかである。

(4) 原告は、ワタライトSWテープの耐折れ試験の結果として甲C第一一号証を提出するが、フランジガスケット材は、振動を受けるために用いられるたわみ継手材とは異なり、鋼製フランジと鋼製フランジの間に挟まれて使用されるものであるから、耐折れ試験は直接関係のないものである(この点は原告も自認するところである。)。

(5) 丙第一六号証によると、財団法人日本建築総合研究所は、昭和六三年八月一二日、ワタライトMGクロスは昭和四五年建設省告示第一八二八号の基材試験及び表面試験に合格するものであると判定していることが認められるところ、被告渡辺及び被告前田硝子は、炉内温度を七九九度とする基材試験で合格判定を受けているから、耐熱温度を五〇〇度とする表示は問題がない旨主張する。しかし、右建設省告示第二に規定する基材試験は、三個の試験体のそれぞれについて、試験体を加熱炉に挿入した後二〇分間加熱して行う加熱試験において、試験体挿入後の炉内温度が、試験体挿入前に調整した炉内温度(七四〇度から七六〇度までに二〇分間以上安定するよう加熱炉を調整した温度)よりも五〇度を超えない場合を合格とするものであり、すなわち、一定の炉内温度の中で試験体を二〇分間加熱した場合における炉内温度の変化が一定の基準内に止まつたときにこれを合格と判定するものであつて、当該試験体の変化自体については何ら触れるところがなく、試験体の耐熱温度自体を測定するものとはいえない。

(6) 被告渡辺は、一般的にガラスクロスの耐熱温度は五五〇度とされているとして甲A第一五号証を引用するが、甲A第一五号証は、石綿製のたわみ継手に代わつて使われはじめたガラスクロス製のたわみ継手も三〇〇度以上に加熱すると振動で破損するという弱点があるとする新聞記事であつて、特にガラスクロスの耐熱温度に重点をおいたものではなく、耐熱温度を五五〇度とする根拠を明示したものでもないから、あまり参考になるものではない。

(7) 被告渡辺は、従来フランジガスケット材の原資材として使用していた等級Aの石綿布につき、JIS(R三四五一)は、試験片の厚さが二ミリメートルの場合、四〇〇度±一〇度の電気炉中で試験片を三〇分加熱したときの引張強さの数値が縦三・九以上、横一・六以上であることを要する旨規定していたところ、ワタライトクロスは右数値以上であつたから、石綿との対比から耐熱温度を五〇〇度と記載しているのであつて、JIS規制との関係から考えると需要者にマッチした表示というべきであると主張するが、仮に引張強さの数値につき右のとおりの結果が出たとしても、直ちに耐熱温度を五〇〇度と結論づけるのは無理があるのみならず、そもそも物性の異なる石綿布に関するJISの規格をガラスクロスにそのまま当てはめること自体疑問といわざるを得ない。

(8) 被告前田硝子は、丙第一号証ないし第三号証の試験はいずれも五五〇度までの温度でなされているがなお引張強度を残していると主張するが、その引張強度から五〇〇度においてフランジガスケット材としての使用に耐えるものであることを導き出すに足りる資料はない。

(9) 被告前田硝子は、グラスファイバー(Eガラス)の特性について、日本電気硝子株式会社のカタログ(丙第一〇号証)では軟化点を八四三度、歪点を六四〇度と表示しているとするが、これをもつて直ちに耐熱温度の根拠とすることはできない。

(10) 被告前田硝子は、日東紡績株式会社のパンフレット(甲C第七号証)では「五五〇度では加工の種類によらず、ガラス繊維自体の耐熱性がそのまま表れる」と記載されていることを、ワタライトクロスの耐熱温度を五〇〇度とすることの根拠に挙げるが、甲C第九号証(原告に対する日東紡績株式会社の回答書)によれば、右記載は、四〇〇度以下の加熱後では加工の種類によつて引張強さのデータに差が見られるが、五五〇度で加熱した後は右の点につき差が見られない、すなわち加工の種類にかかわらずガラス繊維自体の引張強度がそのまま表れることになるという意味に過ぎず、ガラス繊維の耐熱温度については何ら触れているものではないことが認められる。

(三) 右(二)に検討したところによれば、原告並びに被告渡辺及び被告前田硝子がそれぞれその主張の根拠とする証拠には適切でないものが多く、前記(一)に説示した意味での耐熱温度(その製品を安全に使用できる温度)を認定する決め手に乏しいといわざるを得ないが、右(二)(1)のとおり、硝子繊維協会が「ある温度で加熱処理し、引張強度(常温測定)が略一定になつた時、引張強度保持率が五〇パーセントを確保できる温度」をもつて最高使用温度としているところ、同(3)のとおり、被告広告二2掲載の「ワタライトクロスと石綿布との比較」と題する表によつても、ワタライトクロスの引張強度が常温時の引張強度の五〇パーセントを維持できる温度は三〇〇度と四〇〇度の間であることに、右硝子繊維協会がガラスクロスの最高使用温度を二三〇度としていることを併せ考えると、ワタライトクロス(ワタライトSWテープ)の耐熱温度は少なくとも五〇〇度に達するとはいえないから、被告表示二〈5〉は誤認惹起表示に当たるといわざるを得ない。

4  JISR三四一四(被告表示二〈3〉〈6〉)

被告表示二〈3〉は、被告広告二1の「基材ワタライトMGクロス特性」と題する表に「備考」として、被告表示二〈6〉は、被告広告二2の「ワタライトクロスと石綿布との比較」と題する表のワタライトクロスTR-九〇一〇の欄に「備考」として、それぞれ表示されたものである。

証拠(甲A第一二号証、丙第一八号証、証人吉岡大輔、原告代表者)及び弁論の全趣旨によれば、ワタライトクロスはJISR三四一四に適合するものでないことが認められる。

被告渡辺及び被告前田硝子は、ワタライトクロスTR-九〇一〇は厚みが二ミリメートルについてのものであり、JIS規格にはこのような厚手のものはないので、それとの参考のために「備考として」記載したに過ぎないとし、丙第一八号証及び証人吉岡大輔の証言中にはこれに沿う部分もあるが(「JISR三四一四とは異なることを示すために」備考欄に記載したとする。)、「JISR三四一四に適合するものではない」とか、「JISR三四一四とは異なる」というような説明でもあれば格別、単に「備考」として「JISR三四一四」と表示してあれば、ワタライトクロスがJISR三四一四に適合するものであることを注意的に表示したものと受け取られることは当然というべきであり、さらに被告表示二〈6〉については、前記表において、ワタライトクロスTR-九〇一〇の比較対象になつている石綿布について「備考」として「JISR三四五一」の表示があるところ、被告渡辺の販売する石綿布はJISR三四五一に適合するものであり(証人吉岡大輔)、このことから、ワタライトクロスもそこに表示されているJIS規格に適合するものであると受け取られることはより明らかであるから、被告表示二〈3〉〈6〉は誤認惹起表示に当たるものというべきである。

三  争点3(被告表示一又は二が誤認惹起表示に当たる場合、原告は、右表示により営業上の利益を侵害され又は侵害されるおそれがあるか〔差止請求権を有するか〕)

1  原告製品並びに被告製品一及び二は、原告製品がカーボンを素材とするものであり、被告製品一及び二がガラス又はロックウールを素材とするものであるという違いはあるものの、石綿の使用が廃止された後に主流となつたノンアスベスト製品たるダクト材として同一の目的を有するから、原告製品と被告製品一及び二の間には競合関係が生じるものといわなければならない。

そして、証拠(甲A第一、第一二号証、甲C第七号証、乙A第一号証、第一九号証の1・2、丙第六号証ないし第八号証、第一〇、第一二号証)及び弁論の全趣旨によれば、原告、被告アズミ及び被告渡辺を含むダクト材やその基材のメーカーは、その製品につき不燃性、耐熱性、JIS番号等をセールスポイントとして積極的に宣伝していることが認められ、顧客も当然これらの事項に注目していずれの製品を購入するかを決するであろうから、被告表示一〈1〉〈2〉〈4〉〈5〉〈6〉、被告表示二〈1〉〈3〉〈5〉〈6〉が誤認惹起表示であることによつて、原告は営業上の利益を侵害されるおそれがあるということができる。

2  被告アズミは、建築基準法施行令一二六条の三第一項二号によれば、フランジガスケット材は不燃材料であることが必要であるから、昭和四五年建設省告示第一八二八号に定める試験に合格するか、右試験に合格する不燃材料としての性質を有することが必要であるところ、原告自身の製品が不燃材料の性質を有することの立証がないから原告は営業上の利益を侵害されるおそれのある者とはいえないと主張するが、証拠(甲A第二一号証、甲B第八号証、原告代表者)によれば、日東紡績株式会社において実施された試験において、原告製品のうちMK七〇等が昭和四五年建設省告示第一八二八号の第三に定める表面試験に合格との判定を受けたことが認められるから、採用することはできない。

四  争点4(被告アズミは現在被告表示一〈1〉ないし〈6〉の使用を廃止しているか。将来同様の表示をするおそれがあるか。)

被告表示一〈3〉をもつて誤認惹起表示といえないことは前記一1(五)説示のとおりであるから、これを除いた被告表示一〈1〉〈2〉〈4〉〈5〉〈6〉の使用について検討する。

証拠(乙B第一一号証、被告アズミ代表者)及び弁論の全趣旨によれば、被告アズミは、被告表示一〈1〉〈2〉の掲載された被告広告一1(ダクトシール見本帳)については、一時は応急的措置として、被告表示一〈1〉、被告表示一〈2〉のうち「建設省認定」の部分を残して番号のみをサインペンで塗りつぶしたものを配布したこともあつたが(甲B第一二号証)、平成四年からは表示を変更して「建設省認定」の部分を含む不燃認定番号全体を表示しないダクトシール見本帳(乙B第四号証。アズミシールFについては、「グラスファイバーを主成分とした不燃試験に合格した材料を使用」と表示している。)を作成し配布していること、被告表示一〈6〉が掲載された被告広告一3(ロックウールフェルトの特長、物性、材料構成に関する品質明細書)については、その後、耐熱温度を二八〇度と表示した品質明細書(乙B第一号証)を使用し、被告表示一〈5〉が掲載された被告広告一4(グラスウールフェルトの特長、物性、材料構成に関する品質明細書)については、本訴が提起された平成三年六月頃からは、従来の不燃認定番号の表示の後に「…の素材を使用」と手書きで記載した品質明細書(乙B第二号証の2)を使用するようになつたことが認められ、被告アズミは、現在、被告表示一のうちの一部の使用を一応中止していることが認められる。

しかしながら、被告表示一〈4〉〈5〉の掲載された被告広告一2(比較表)の使用を中止したか否かは本件全証拠によるも不明であり、被告アズミが現在も被告表示一〈1〉〈2〉〈4〉〈5〉〈6〉は誤認惹起表示に該当しないと主張して争つていることは弁論の全趣旨により明らかであり、今後被告表示一〈1〉〈2〉〈4〉〈5〉〈6〉は一切使用しないと言明しているわけではないことに照らせば、被告アズミは今後も被告表示一〈1〉〈2〉〈4〉〈5〉〈6〉と同様の表示をするおそれがあるといわなければならない。

五  争点5(被告渡辺は現在被告表示二〈1〉ないし〈3〉の使用を廃止しているか。将来同様の表示をするおそれがあるか。)

被告表示二〈2〉をもつて誤認惹起表示といえないことは前記二2説示のとおりであるから、これを除いた被告表示二〈1〉〈3〉の使用について検討する。

証拠(丙第一八号証、証人吉岡大輔)及び弁論の全趣旨によれば、被告渡辺が昭和六三年一月二七日、被告製品二をワタライトMGテープの名(「MG」は、被告製品二の基材を提供する被告前田硝子の略称である。)で一手販売元の双和産業株式会社に納入したところ、原告は、同年三月七日、被告渡辺に対し、MGテープの名称は原告が五年前から使用しているなどとしてクレームをつける内容の内容証明郵便(丙第四号証)を送付したこと、被告渡辺は、被告製品二の販売開始直後のことであつたので、無用の紛争を避けるため、同月一四日、被告広告二1(甲C第三号証)の配布をやめるとともに、被告製品二の名称をワタライトSWテープ(「SW」は双和産業株式会社と被告渡辺それぞれの頭文字をとつたもの)に変更し、伝票においてもワタライトSWテープの名称を使用するようになつたこと、また、被告渡辺は、双和産業株式会社に対し、被告広告二1の廃棄を要請し、昭和六三年八月からは、被告広告二2(甲C第一号証)を配布しているが、これには被告表示二〈1〉〈3〉は表示していないことが認められる。

右認定事実によれば、被告広告二1から被告広告二2への変更は製品名の変更に伴うものであり、右変更後六年以上経過した現在、被告渡辺が被告製品二の名称を今更ワタライトMGテープに戻すとは考え難い。そうすると、被告渡辺が被告表示二〈1〉〈3〉は誤認惹起表示に該当しないと主張して争つていることを考慮してもなお、再度被告広告二1と同じパンフレットを配布し、ひいて被告表示二〈1〉〈3〉と同様の表示をするおそれがあるとは認められない。

原告は、被告渡辺は大量に頒布した被告広告二1の回収を全く行つていないし、頒布した先にワタライトMGテープの廃止も通知していないから、顧客は被告広告二1を見て注文を続けることは当然であり、したがつて、現在も被告表示二〈1〉〈3〉の使用差止めを求める必要があると主張するが、右認定説示、及び現になされている誤認惹起表示行為の停止と将来なされるおそれのある誤認惹起表示行為の予防を請求する権利を定める不正競争防止法二条一項一〇号、三条の趣旨に照らし、採用することができない。

そうすると、原告の被告渡辺に対する被告表示二〈1〉〈3〉の表示の停止を求める差止請求は、この点で理由がないことになる。

六  争点6(被告表示一〈1〉ないし〈6〉のいずれかが誤認惹起表示に当たる場合、被告アズミには右表示につき故意・過失があるか。)

被告表示一〈3〉が誤認惹起表示に当たらないことは前示のとおりであるから、これを除いた被告表示一〈1〉〈2〉〈4〉〈5〉〈6〉について検討する。

1  被告アズミは、仮に不燃材料の認定が用途毎にされるものであつたとしても、建築基準法、昭和四五年建設省告示第一八二八号の解釈について見解が相違したものに過ぎず、直ちに被告アズミに過失があつたと評価することはできないと主張するが、前記一1説示のとおり、建設大臣による不燃材料の認定は主たる用途を定めて申請するものである以上、不燃材料の認定については建設省において右主たる用途が考慮されたであろうことは容易に判断できることである(そうでなければ「主たる用途」を記載させる意味はない。)から、被告オリベストが認定を受けた主たる用途「建築物の屋根・壁・天井」とは全く用途の異なるフランジガスケット材について被告アズミが被告表示一〈1〉〈2〉〈5〉を使用したことにつき過失があるといわざるを得ない。

被告アズミは、被告アズミに過失がなかつたとする理由として、(一)昭和四五年建設省告示第一八二八号に定める試験については、主たる用途や構造に関する規定が存在しないこと、(二)被告アズミとしては、不燃材料の認定が主たる用途毎にされるものか否かを確認する術はなかつたこと、(三)神戸市役所の建築工事の際に、被告広告一1と同様の見本帳を提示したが、何のクレームもなかつたこと、(四)建築確認申請をする段階において、都道府県建築指導課から何のクレームも受けなかつたことを挙げるが、右に説示したところから、採用することができない。

2  被告表示一〈4〉〈6〉については、本件全証拠によるも被告アズミは相当の根拠をもつて使用したとは認められないから、右表示の使用について過失があることは明らかである。

七  争点7(被告表示一〈1〉ないし〈6〉のいずれかが誤認惹起表示に当たる場合、被告オリベストは被告アズミと共同責任を負うか)

1  証拠(乙A第三号証、証人大久保幸一、原告代表者、被告アズミ代表者)及び弁論の全趣旨によれば、以下(一)ないし(三)の事実が認められる。

(一) 被告アズミは、昭和六一年頃、昭和六四年(平成元年)三月三一日をもつて石綿の使用が禁止されているという情報があつたことから、ノンアスベストのダクト材製品を開発することにし、被告オリベストの説明も聞いた上で、ボーロイドD、ボーロイドGを基材としてアズミシールA、アズミシールFを製品化することにした。

被告オリベストは、ダクト材の基材として用いられることを認識しながら被告アズミに対しボーロイドD及びボーロイドGを販売し、ボーロイドD及びボーロイドGの不燃認定番号を教示するとともに、販売促進資料として、ボーロイドD及びボーロイドGについての試験結果、建設大臣による不燃材料の認定書の写し(甲B第一号証の5ないし7、9ないし12)を送付し、被告アズミは、右不燃認定番号を被告表示一〈1〉〈2〉〈5〉として被告広告一1、2、4に表示した。

(二) 原告代表者は、昭和六三年頃、被告オリベストに対し、被告アズミが被告広告一1、2、4において、ボーロイドD及びボーロイドGが不燃認定番号を取得した際の主たる用途と異なる用途の製品に右各不燃認定番号を表示しているとして抗議するとともに、被告アズミ代表者との面談の仲介を求めた。被告オリベストの担当者は被告アズミ代表者に対し、原告代表者が面談を求めている旨伝えたが、被告アズミ代表者は会うつもりはないと返答し、その件はそのままになつた。

原告は、平成元年四月、被告オリベストに原料を供給している日本電気硝子株式会社に対して、「被告オリベストが、漏気量が多大であるのに、屋根材の不燃認定をいかにもシール材で取つたようにして販売しているのはどういうことか」などとクレームをつけた上、被告オリベストとの取引の中止を促す内容証明郵便を送付して、回答を迫つた(乙A第一七号証)。日本電気硝子株式会社から連絡を受けた被告オリベストは、吉武営業部長(当時)を担当者として、被告アズミ代表者に対してカタログの表示につき改善するよう申し入れたが、被告アズミが被告表示一〈1〉〈2〉〈5〉を削除したかどうか確認することまではしなかつた。

(三) 前記一1(二)のとおり、本訴提起前の平成三年三月二二日頃、原告代理人弁護士が、内容証明郵便(甲B第一七号証の1)により被告オリベストに対し、被告アズミはアズミシールA及びアズミシールFについてシール材ではなく屋根材としての不燃認定番号を表示しているとしてその是正を申し入れたのに対し、被告オリベストは、同年四月二二日付内容証明郵便(同号証の2)により、ボーロイドD、ボーロイドGの不燃認定番号は建築材料一般の不燃材としての認定番号であり、屋根材やダクト材などに用途を限定して認定されたものではないとし、なお、被告アズミのした表示が不当であると判断するのであれば被告アズミに申入れをするのが筋である旨回答した。しかし、本訴提起後、被告アズミが平成四年から被告広告一1(ダクトシール見本帳)については不燃認定番号を表示しないもの(乙第四号証)に変更したところ、被告オリベストは、同年三月一三日頃、被告アズミに対し、内容証明郵便(甲B第一一号証)により、被告アズミが不燃認定番号を抹消したカタログに変更したことは承知したが、配付済みのカタログによりアズミシールA、アズミシールFについて取得した不燃認定番号であると誤認されるおそれがあるので配付済みカタログの回収と新しいカタログとの差替えを求めるとの申入れをし、さらに、同年四月一〇日頃、被告アズミに対し、「屋根裏貼り用以外への『ボーロイドD』及び『ボーロイドG』の販売中止に関するお願い」と題する書面により、同年七月一日からボーロイドD及びボーロイドGはこれら製品が取得する建設大臣認定・指定番号が表示できる屋根裏貼り向けに限定して販売することになつた旨通知した(乙A第一八号証)。

2  まず、原告は、不燃認定番号の表示につき被告オリベストと被告アズミとの間に通謀の存したことが窺われると主張するが、本件全証拠によるも通謀の事実は認められない。

しかしながら、右認定事実によれば、被告オリベストは、被告アズミに対し、ダクト材の基材として用いられることを認識しながらボーロイドD及びボーロイドGを販売し、ボーロイドD及びボーロイドGの不燃認定番号を教示し、認定書の写しも送付したというのであるが、不燃認定番号を教示され、不燃材料の認定書の写しまで送付されれば、特に禁じられていない以上、被告アズミにおいて、被告オリベストから購入したボーロイドD、ボーロイドGを基材としてアズミシールA、アズミシールFを製造しこれを販売するについて、その耐火性能を宣伝するために不燃認定番号をカタログ等に表示するであろうことは容易に予測し得たというべきであるから、被告オリベストとしては、不燃認定番号はあくまで主たる用途を「建築物の屋根・壁・天井」として取得したものであることにつき被告アズミに対して念を押しておく義務があるというべきところ、被告オリベストが被告アズミに対し右のような念押しをしたとの事実を認めるに足りる証拠はないから、被告オリベストには被告アズミが被告表示一〈1〉〈2〉〈5〉の表示をしたことにつき過失があるといわざるを得ない。被告オリベストは、被告表示一について、指示や教示を与えたことも、相談や協議を求められたこともなく、またこれを助長したこともないと主張するが、被告表示一〈1〉〈2〉〈5〉の表示をすること自体について直接そのような事実が存在しないとしても、右説示のとおり過失があるといわざるを得ないのである。

また、被告オリベストは、認定書、試験成績書等は、求められればどの顧客にも送付するのが商慣習であると主張し、証拠(乙A第三号証、第四ないし第九号証の各1・2、第一〇号証の1ないし3、第一一、第一二号証の各1・2、証人大久保幸一)によれば、建設材料の販売においては、顧客から防火、耐火材料であることの証明を求められるため、メーカーによつては自社のカタログに不燃材料の認定書等の写真を掲載することが行われていることが認められるが、被告オリベストは、主たる用途を「建築物の屋根・壁・天井」として不燃材料の認定を受けたボーロイドD及びボーロイドGを、屋根・壁・天井の材料として、あるいは特に用途を認識することなく被告アズミに販売したというのであれば格別、用途の全く異なるダクト材の基材として用いられることを認識しながら販売したのであるから、責任を免れるものではない。

そして、被告オリベストは、被告アズミが被告表示一〈1〉〈2〉〈5〉の表示をした後も、原告が本訴を提起するまでは、これをやめさせるべく積極的な行動をしたとの事実を認めるに足りる証拠はないから、右表示につき被告アズミとともに責任を負うといわなければならない。

3  一方、被告表示一〈4〉〈6〉については、特に被告オリベストがこれに関与したとの事実を認めるに足りる証拠はないから、被告オリベストは責任を負わない。

八  争点8(被告表示二〈1〉ないし〈6〉のいずれかが誤認惹起表示に当たる場合、被告前田硝子は被告渡辺と共同責任を負うか)

被告表示二〈2〉〈4〉が誤認惹起表示に当たらないことは前示のとおりであるから、被告表示二〈1〉〈3〉〈5〉〈6〉について検討する。

1  被告渡辺は被告前田硝子から販売促進資料として交付されたパンフレット(丙第一四号証)に、ワタライトクロスの基材であるTR-九〇一〇の耐熱温度につき五〇〇度と表示されていたので、その根拠につき特に被告前田硝子に確認することなくそのまま被告広告二2に被告表示二〈5〉として表示したことは前記二3(二)認定のとおりであり、また、証拠(丙第一八号証、証人吉岡大輔)及び弁論の全趣旨によれば、被告渡辺は、同パンフレットの「TR-九〇一〇クロス特性表」と題する表の備考欄に「JIS三四一四」と表示されていたことから、これに基づいて被告表示二〈3〉〈6〉を表示したことが認められる。

このように、被告表示二〈3〉〈5〉〈6〉はいわば被告前田硝子から販売促進資料として交付を受けた右パンフレットの各記載を引き写したものであり(右パンフレットのJIS三四一四の表示にも、TR-九〇一〇は「JIS三四一四に適合するものではない」とか、「JIS三四一四とは異なる」というような説明は全くない。)、被告前田硝子としては、販売促進資料として右パンフレットを被告アズミに交付した以上、それに記載されたデータ等が引用されるであろうことは当然予測すべきことであるから、被告渡辺が右各表示をするについて被告前田硝子に過失があるというべきであり、責任を免れない(被告渡辺との間に通謀があつたとの事実は、本件全証拠によるも認められない。)。

2  しかし、被告表示二〈1〉については、特に被告前田硝子の資料に由来するものではないから、被告渡辺が右表示をするについて、被告前田硝子に被告渡辺との通謀があるといえないことはもちろん、過失があるということもできない。

原告は、被告渡辺は被告広告二1、2を発行する前に、被告前田硝子にその都度見せており、これに対して被告前田硝子は何ら異議を述べなかつたのであるから、被告前田硝子が被告渡辺のした被告表示二〈1〉を承知していたことは明らかであると主張する。しかし、右原告主張事実を認めるに足りる証拠はなく、かえつて、証拠(証人吉岡大輔)によれば、被告渡辺は、被告広告二1、2を発行した後に、これらを被告前田硝子に見せたに過ぎないことが認められ、そして被告前田硝子は、被告表示二〈1〉のような他人の製品の性能に関して、調査したり、異議を述べなければならないという法的義務は負わないというべきである。

九  争点9(被告らが損害賠償責任を負う場合に、原告に賠償すべき損害の額)

1  原告製品と被告製品一及び二の間に競合関係が生じることは前記三1認定のとおりである。

2  原告は、原告は昭和六二年まではダクト材の売上げを伸ばしたが、同年一〇月以降原告製品の売上げが減少し、昭和六三年春から減少の一途をたどつたのはすべて被告アズミ、被告渡辺、訴外株式会社アサヒ産業及び訴外三喜工業株式会社らの誤認惹起表示によるものである旨主張し、損害額につき、原告の販売するダクト材(フランジガスケット材及びたわみ継手材)の昭和六二年度の売上げ額と比較して昭和六三年度以降の毎年の売上げの減少額を算出し、これに利益率三〇パーセントを乗じたものが原告の逸失利益であり、その合計は七九九一万八三二七円となり(甲A第二号証の1・2)、これに昭和六二年以前の売上げ減少分を加えれば総計八〇〇〇万円を下ることはない旨主張する。

しかし、本件訴訟において原告が競合関係に立つと主張するのは、原告の「カーボン製」の「フランジガスケット材」と、被告らの、素材が「ロックウールフェルト」又は「グラスウールフェルト」である「フランジガスケット材」であるところ、原告が原告製品の売上げの減少の証拠として提出する右甲A第二号証の1・2(売上金額・売上げの低下金額・予想利益表)の売上金額には、素材については石綿及びカロリンメックスの、製品の種類についてはたわみ継手材の売上げが含まれている(原告代表者)から、これをもつて、原告の「カーボン製」の「フランジガスケット材」の売上げの減少の証拠とすることはできない。特に、証拠(甲A第一二号証、原告代表者)及び弁論の全趣旨によれば、原告が原告製品の売上げが減少の一途をたどつたと主張する昭和六三年は、原告並びに被告アズミ及び被告渡辺を含む各社がダクト材について石綿製品からノンアスベスト製品への切替えを図つた時期であることが認められ、それまで石綿製品を販売していた取引先に対し、物性の全く異なるカーボン製品を引き続いて同じ程度の数量販売できるという保証はない。

また、甲A第一二号証には、被告アズミ及び被告渡辺の誤認惹起表示により原告が受注に失敗したり、取引先を奪われたとする例がいくつか記載されており、原告代表者も右記載に沿う供述をするが、その一つである神戸市役所の工事については、原告製品(カーボン製品)とアズミシールAが競合したのではなく、原告のカロリンメックスとアズミシールAが競合した事例である可能性が高く(乙B第八号証、被告アズミ代表者)、その他の事例についても、原告製品と被告らの製品の価格差(原告製品の方が被告らの製品より三割から五割高い。原告代表者)、販売形態の差異(原告は、販売店がほとんどなく、営業専任の社員もおらず、もつぱらカタログの送付を中心にして販売活動を行つているのに対し、被告アズミは、販売店を通じ、被告製品一のカタログとサンプル、価格等を提示して営業活動を行つている。原告代表者、被告アズミ代表者)等、種々の要因が影響している可能性が高い。

3  以上要するに、原告は、誤認惹起表示というべき被告表示一〈1〉〈2〉〈4〉〈5〉〈6〉及び被告表示二〈1〉〈3〉〈5〉〈6〉により、営業上の利益を侵害されるおそれがあることは前示のとおりであり、したがつて、現実に原告が損害を被つたことも窺われないではないが、本件においてその損害額を認定するに足りる証拠はないから、結局、原告の請求中被告らに対する損害賠償請求は理由がないといわざるを得ない。これに反する原告の主張は採用できない。

一〇  争点10(原告の差止請求、損害賠償請求は、信義則に反するか)

原告の被告らに対する損害賠償請求は前記九のとおり理由がないから、被告アズミ及び被告渡辺に対する差止請求の関係で、被告アズミが原告自身による誤認惹起表示であるとする点について検討する。

1  原告のカロリンメックスのカタログである乙B第五号証には、被告オリベストがボーロイドG(素材はグラスウールフェルト)について取得した不燃認定番号(不燃(個)第一八二一号、建設省告示二九九九号)及び「屋根三〇分耐火」(R-〇一二六)、並びに被告オリベストがボーロイドKについて取得した不燃認定番号(不燃(個)第一〇五一号、第一〇五九号、第一四一五号)が表示されているところ、証拠(証人大久保幸一、原告代表者)によれば、原告は、当時、被告オリベストからボーロイドD(素材はロックウールフェルト)を購入しこれを加工して販売しようとしたが(MK三〇〇又は四〇〇)、ボーロイドG及びボーロイドKを基材とする製品については販売する具体的な計画もなかつたことが認められる。そうすると、右カタログの表示は、カロリンメックスが、あたかも右不燃認定番号等を取得しているかのように誤解させる誤認惹起表示であるといわざるを得ない。

原告は、右不燃認定番号の表示は右カタログの作成段階で被告オリベストの担当者があたかもフランジガスケット材に使用可能な番号であるかのように説明したため誤つて記載したのであると主張するが、仮にそのような説明を受けたとしても、使用する予定もない基材についての不燃認定番号等を自己の製品のカタログに表示する理由にはならない。また、原告代表者は、被告オリベストの担当者が右不燃認定番号等の表示を了解していたと供述するが、証人大久保幸一の証言に照らし採用することができない。

2  乙B第五号証には、カロリンメックスについて「特許出願済」との表示があるが、甲A第一三号証及び原告代表者の供述によれば、原告は実用新案登録出願をしたに過ぎないことが認められる。しかし、原告代表者の供述によれば、右表示は、原告が特許権と実用新案権を混同していたことによるものと認められ、一般にもそのような混同はままみられるところであるから、右表示は、不正確であることは明らかであるものの、虚偽として非難すべきほどのものではない。被告アズミは、原告のチラシ(乙B第七号証)では特許出願と実用新案登録出願が併記されており、原告は両者が異なることを明確に認識していたのであるから意識的に虚偽の表示をしたものとみるべきであると主張するが、右のような表示をすることで原告に特に利益があるとは考えられないから、採用することができない。

3  カロリンメックスの素材については、被告アズミ提出の乙B第九、第一〇号証は、クリソタイル石綿ではないかと推察されるとするが、原告提出の甲A第二三号証は、カロリンメックスから石綿は検出されないとしており、結局、カロリンメックスの素材が石綿であると断定するに足りる証拠はない。

なお、被告渡辺は、原告がカロリンメックスについて「夢の繊維」であると宣伝していること(乙B第七号証)を問題とするが、商品の宣伝に「夢」という言葉を使用することが広く行われているのは公知の事実であるから、不当とすることはできない。

4  乙A第一六号証の4は、原告が全国ダクト工業団体連合会の会誌一四号(平成二年一二月二〇日発行)に掲載した広告であるが、「たわみ継手。フランジガスケットは平成三年度建設省営繕部工事仕様が改定されました。」との記載のもとに、フランジガスケットの改定項目の一つに「告示の下燃材(「不燃材」の誤記と認める。裁判所注記)に合格品である事」を挙げた上、「MKアルミラップガスケットは各条件を満たしております。」と表示している。

しかし、原告代表者の供述によれば、右広告掲載の時点では、未だ建設大臣官房官庁営繕部監修機械設備工事共通仕様書は改定されておらず、結局平成四年度に改定されて平成五年版の仕様書(甲A第一七号証)となつたことが認められる。原告は、乙A第一六号証の4の広告の締切時点で、平成三年度に機械設備工事共通仕様書の改定が予定されていたことは客観的事実であり、国会答弁においてもその旨の答弁がなされていたから、原告が広告の締切との兼ね合いで共通仕様書の改定が間違いないものと考えて、改定が実施されたような表現をしたとしてもやむを得ない旨主張し、原告代表者は、右共通仕様書は本来は四年に一回改定されるものであり、次の改定版は平成五年四月に出るはずであつたが、原告は、国会の審議経過や建設省の営繕課の設備係長との電話のやりとりから、平成二年度の年度内一杯に改定され平成三年四月に出るはずだと考え、改定の案として内示されていた甲A第一四号証の1に基づき右のような広告を作成したと供述するが、甲A第一〇号証によれば、平成二年五月三一日の衆議院建設委員会では、建設大臣官房官庁営繕部長は、「いろいろ検討しているのは、大体考え方とか試験の方法とか、そういうのは結果として七月くらいにはある程度の結論が出るものと思つておりますが、そういうものが実際に世の中に出回れるようになつて初めて共通仕様書に規定することになりますので、共通仕様書に規定するのはしばらく先の状態であると思います。」と答弁するのみで、改定の具体的な時期については一切述べていない(かえつて、右答弁によれば、平成二年七月頃にダクト材の仕様について一応の基準を決め、それに合致するダクト材が開発された後に右共通仕様書を改定するという手順を想定していたことが認められ、平成二年度内の共通仕様書改定は予定していなかつたものというべきである。)。また、建設省の営繕課の設備係長が原告に平成二年度の年度内に右共通仕様書を改定すると明言したかどうかは疑わしく、仮に改定がされるとしても、その改定後の内容が原告の認識していたものと同じであるという保証はない。したがつて、「客観的事実」として平成三年度に機械設備工事共通仕様書が乙A第一六号証の4記載内容のとおりに改定されることが予定されていたとは到底いえないから、右主張は前提を欠く。

次に、原告が、乙A第一六号証の4において、フランジガスケット材の改定項目の一つに「告示の不燃材に合格品である事」を挙げた上、「MKアルミラップガスケットは各条件を満たしております。」と表示している点について、原告代表者は、乙A第一六号証の4を作成した時点において、建設省から機械設備工事共通仕様書の改定作業を委託された日本空調衛生工事業協会が作成した甲A第一四号証の1及び建設省の営繕課の設備係長の説明により右仕様書改定の後は昭和四五年建設省告示第一八二八号の定める試験のうち第三の表面試験にだけ合格すればよいと考え、また、この頃、右設備係長から民間の試験所で右試験に合格すればよいとの示唆を受けたので、原告製品が日東紡績株式会社で右表面試験に合格との判定を受けたことから、右の表示をしたと供述する。しかし、乙A第一六号証の4に、「告示の不燃材に合格品である」という「条件を満たす」と記載されていれば、これを見た顧客は、当然、MKアルミラップが基材試験を含む昭和四五年建設省告示第一八二八号の試験に合格したものと解釈すると考えられるし、乙A第一六号証の4作成時点で、建設省の営繕課の設備係長から原告に対し、右のような説明あるいは示唆があつたことを認めるに足りる証拠はない。

結局、乙A第一六号証の4の前記表示は誤認惹起表示といわなければならない。

5  以上を要するに、原告自ら誤認惹起表示に当たるような表示をしている事実が認められ、原告の誤認惹起表示についての主張は、他人の表示に厳しく、自らの表示には甘いという面がなくはないものの、不正競争防止法二条一項一〇号にあつてはその立法趣旨として需要者の利益保護の色彩が強いことも考えれば、原告の誤認惹起表示によつて被告らの誤認惹起表示が正当化されるとか、原告が差止請求権を行使することが信義則に反するとまでいうことはできない。

第五  結論

よつて、原告の請求は、主文掲記の限度で理由がある(仮執行の宣言は付さないこととする。)。

なお、原告は、差止請求について、「…パンフレット、カタログ等に表示して各商品を販売してはならない。」という形で請求をしているが、被告製品一又は二に直接被告表示一又は二が付されているわけではなく、重点は被告製品一又は二を「販売」することではなくそのパンフレット、カタログ等に被告表示一又は二を「表示」することにあるから、主文においては、このことを明確にするような表現をしたものである。

(裁判長裁判官 水野 武 裁判官 小沢一郎 裁判官 本宮弘行)

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